海賊

□鬼徹の囁き【4n】
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――足リヌ


紅く染まった刀身が、ぎらりと光った。

「まだ足りねぇのか」

俺は刀を軽く振り、刀身を滴る血を払った。


――未ダ足リヌ


白銀を震わせ、鬼撤が呻く。

もっと、と。


「…食い意地張ってンな」
ルフィみたいに。

言いかけて、やめた。

いましがた死んだヤツのことなんか、言っても。
虚しくなるだけだ。

死んだ奴?
否、俺が殺したヤツってのが、正しいか。


足元に広がる血の海。
その海の真ン中で、折り重なるように倒れる三人。


「お前、三人も食ったンだぞ」

踵を返すと、血がぴちゃっと跳ねた。
ルフィのだか、ナミのだか、ウソップのだか知ンねェが。


――足リヌ


その言葉に導かれるように、俺はキッチンへと向かった。


アイツはコックだから、きっとお前を腹一杯にしてくれるぜ。

それに金髪が血の赤に染まる様は、きっと美しいに違いない。

そんなことを考えながら。

きっとコックは鼻唄まじりで、夕食の準備をしてるだろう。
その背を思い浮かべながら、俺はキッチンの扉をゆっくりと開けた。


「何だ?メシはまだだぜ」

キッチンへの来訪者に気付いたコックが、タマネギ片手に振り返る。
その表情は、振り向いた次の瞬間、驚愕の色に変わった。

抜き身の刀をぶら下げ、返り血に染まった、俺を見て。

「何かあったのか!?」

慌てた様子で、俺に駆け寄ってくるコック。

否。俺に、じゃなく、キッチンの扉に、だ。

扉を塞ぐように俺が立ってるから、外は見えねぇ。
コックは甲板の様子を確認するため、扉の方へ来ただけだ。

俺を押し退けて、甲板へ出ようとするコック。
その身体を、俺は片腕で抱き止めた。



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