海賊

□卑怯者の選択【12n】
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今晩も待ってんのかな。
と思って、俺はキッチンの扉をそっと開いた。

「仕込み、終わったか?」

声をかけたのが俺だと判って、パッと笑顔を見せるコック。

「バッチリ。…飲む?」

ツマミやらグラスやら、きちんと用意されてるし。
やっぱり待ってたか。

「って、準備万端じゃねぇか」

毎晩変わらず待っててくれるのが、少し嬉しい。

俺は思わず笑顔になって、テーブルに着く。
コックも笑って、向かい側に座った。





意外とイイ奴、なんだよな。

ルフィが連れて来た奴だし、悪い奴じゃねぇんだろう、とは思っていたが。

コイツとは意思疎通が出来ねぇと思った、最初。

会話しようにも、何故だか言い争いになる。
言い争いだけならまだいい。

いつも、取っ組み合いの殴り合いになっちまうから、タチが悪ぃ。


でもある日、ふと気付いたら、普通にしゃべれるようになってた。

喧嘩が減って、ナミに怒鳴られる回数も減った。

それどころか。

こんな風に毎夜、ふたりっきりで晩酌するくれぇ、仲良くなってた。


出会った頃の、常に不機嫌そうだった顔はどこへやら。

今じゃ俺の顔見るたび、すっげぇ嬉しそうな顔で、走り寄ってくるし。
仕事してねぇ時はいつも、俺の回りをチョロチョロしてるし。

親鳥か、俺は。

アイツの金髪頭とピヨピヨ煩ぇとこは、ひよこみてぇだが。
親鳥が緑頭なのは変だろう。



ふとした瞬間、目が合う。
ニコリと笑いかけてやる。

当然だろ、晩酌するくれぇの仲なんだから。

するとコックは、パッと目を反らす。…顔を赤くして。

また目が合う。
また笑いかけてみる。

コックは頬を染めて、また目を反らす。


…何だコイツ、俺のこと好きなのか。


気付いたら、面白くなった。
からかう度に赤くなるのとか、
俺の話を必死で聞く姿とか、
可愛いと思った。

こりゃ、親鳥の心境かな。



コックのこと知るのが、楽しくて。
もっと知りたいと思って。


コックと毎晩飲むようになってから、それが日々の楽しみになるまで、そう時間はかからなかった。

そしてそれが当然の日常だと、思うようになってた。


毎晩、夜更かしするコックが、
昼間キッチンで、ウトウトしてることが多くなったとか。
たまに朝寝坊するとか。
気付いてたけど。

コックはキツイって、言い出さなかったし。
…遠慮がちなコックが、それさえ言い出せなかっただけかもしれねぇが。

俺も楽しいのに甘えて、毎晩、キッチンに入り浸ってた。



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