海賊

□人形【11n】
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「ただいま〜」

買い出しから戻ったサンジを見て、ナミは思わず目を疑った。
「お帰りなさい」と言いかけた唇が、中途半端に開いて止まる。

「どうしたの、ナミさん?」

サンジに問われて、ようやくナミは自分が一瞬呆けていたことに気付く。

「どうしたの、って。
サンジくんにそんな趣味があったんだ…って、ちょっと驚いただけよ」

驚きはしたが、日頃のサンジを見る限り、そんな趣味を持っていたとしても、納得は出来る。

そう思いながら。
ナミはサンジの抱く人形に、改めて目を向けた。

「あ、この子ですか?可愛いでしょう。
まぁ、ナミさんの生身の美しさには敵いませんけど〜」

――買い出しの荷物と共に、サンジが持ち帰ったのは、人形だった。
幼い女の子が好みそうな、可愛らしい少女の人形。
長年可愛がられたのか、だいぶ年季が入っている。

買い出しのついでに購入したのか、使いこんだ人形を連れて出かけたのか。
いずれにしてもドン引きだ。

人形相手に愛を囁いているサンジを想像して(あっさり想像も出来てしまって)ナミは苦笑するしかなかった。

「って、ナミさん?」

「まぁ、好き好きだしね…」

食費から購入したのなら無駄遣いを怒るところだが。ナミはそんな気にもならず、自室に戻って行った。

「具合でも悪いのかな…」

ナミの心中など知る由もないサンジは、のほほんと自分の仕事に取りかかるのであった。
と、その前に、

「キミは、後でね」

などと、律儀にも人形に声をかけているあたり、ナミの誤解もあながち間違ってはいないのかも知れない。

現にサンジのフェミニストっぷりは、人形にも如何なく発揮されるようだ。
夕食の仕込みの合間合間で、人形の姿が目に入る度にあれやこれやと、つい話しかけている。
ほぼ無意識のその行為も、端から見れば、人形遊びをしている十九の青年そのもの。

それはゾロの目から見ても例外ではなく。
キッチンに入るなり、そんなサンジの姿を目撃してしまったゾロも、ナミと同じくドン引いた。

「何やってんだ、おまえ…」

「お、マリモン、良いところに来たな」

ゾロのげんなりした表情には気付かず、サンジはキッチンへの来客を出迎えた。いつも通り、至極嬉しそうに。
仕込みは丁度一段落したし、長くはないにしても、二人の時間が過ごせる。
もちろん、ゾロもそのつもりでキッチンにやって来た。

特に用事がある訳ではないが、好きなのだ。
仕事中のサンジをぼんやり眺めたり、他愛ない会話をしたり。何より同じ空間に居ることが。
やはり恋人という間柄だからだろうか。

だがそれは人形フェチではない、普通の恋人を相手にしての話だ。(まぁ多少普通じゃないのには目を瞑るとして)

何だか色々なことに後悔して、ゾロは入って来たばかりの扉へ回れ右。

「いや、邪魔したな」

「へ?おーいゾロー?」

サンジはハテナ顔で見送るしかなかった。

「…何しに来たんだ、あいつ」

首を傾げるサンジは、よもや自分が変態のレッテルを貼られていようとは、思いもしなかった。



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