無題
□冀望【2n】
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好きだし、好かれている自信がある。だから身体を繋げた。無理矢理ではなく、自然な流れだったとサンジは思っていた。
けれどギンは唇を噛みしめて、息を殺すようにしていたから。
本当は嫌なのか、良くないのかと、心配になって。
サンジは手を伸ばして、その頬に触れてみる。
体勢が変わったせいか、ギンはピクリと肩を揺らしたが、艶やかな息を吐いただけで、声は漏らさなかった。
サンジを見上げたその目は、熱に潤んでいて、サンジは少し安心する。嫌がっている訳ではなさそうだ。
「声、出していいんだぜ」
サンジはそう言って、噛みしめていた唇を開かせるようにキスをした。
「……ああ」
ギンの返答は、吐息なのか言葉なのか不明瞭だった。少し困ったような表情だったが、ギンが確かに微笑んだのを確認して、サンジは行為を続行することにした。
*
気怠い熱を帯びた身体をシーツに投げ出して、サンジはタバコに火をつけた。
情事の後、すぐにタバコを吸う人は冷たい人だか相手に愛がないだか、そんな心理テストがあったような気がするが、そんなことはないとサンジは思う。
タバコよりギンが好きだ。タバコがなくて生きていけるかどうかはわからない(なくて大丈夫と断言はできない)が、ギンがいなくて生きていけるかどうかに関しては全く自信がない。
タバコを吸いながらギンの顔を見る。息を整えていたギンも視線に気付いてサンジを見る。ギンの表情が何だか捨てられた野良犬みたいだと、サンジは思った。
堪らなくなって、タバコをもみ消す。
(ほら、タバコよりギンが好きだろ)
まだ半分も吸ってないのに、躊躇なく消してしまえた。誰に向けた訳でもないが、サンジは誇らしげに思った。
「唇、噛み切っちまうぞ」
サンジはそう言って、おもむろにギンの唇をぺろりと舐めた。
思いもよらぬサンジの行動に、ギンが目を丸くする。
「声、我慢すんのに、唇噛み過ぎだ」
我慢しなくていいっつったのに。
言い足して、サンジはギンをぎゅっと抱きしめた。
「…すまねぇ、サンジさん、気ぃ使わせて」
くぐもった声が返ってきて、サンジは久しぶりにギンの声を聞いた気がした。そういえば、情事の間、結局ギンはひとことも喋らなかった。
今まで野郎の喘ぎ声なんて聞きたいと思ったことはないし、裸で抱き合いたいと思ったことも当然ない。
それがギン相手だと、まるで違った。
恥ずかしかろうがあの時の声は聞きたいし、このままダラダラと抱き合っていたいと思う。
野郎に与えたいと欠片も思ったことのない愛情で、ギンがはじめて知ったという優しさで、ギンをとろとろに甘やかしてやりたい。
「いや、謝ることじゃねーんだけどさ。おれは、こうしてるだけで幸せだし」
そう言ってやれば、ギンがおずおずと抱き返してくる。
「ああ、おれも、夢じゃねぇかと思ってる」
慣れない、甘い情事。今まで経験したことのない優しい時間。本当に現実なのか怪しくなる程だ。
ギンはもう一度、今度は心の中でサンジに詫びた。
せっかく何もかも許してくれているのに、染み付いた習慣が抜けそうにないことを。
*