忍者のたまご‐現パロ部屋

□バレンタインの在り方は
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二月も半ば。女の子だけでなく、男だって何となくそわそわと気が立つこの季節。勿論僕だって例外ではない。

2月14日――バレンタインデー。意中の人にチョコレートと共に想いを告げる日。
そんな一般世間では(気持ちの上では)祝日の様な日だけれど、僕は今この時も仕事に勤しんでいた。基本的には年中無休の店。土日だろうが、祝日だろうが関係ない。勿論、バレンタインデー等とイベント事だろうと営業日には当たり前に何の関係もないのだ。
そりゃあ確かに、一ヶ月も前の一月も半ばの頃から入荷してくるチョコレート菓子のパッケージはあからさまにバレンタイン使用になるし、製菓メーカーからは新製品の宣伝用の大きなボードが届く。そしてそれらを何処の棚に入れ込もうか頭を悩ませる事になる。そういう意味では大いにイベント事は堪能しているわけだけど。

毎年、女の子はあげる側として、男は貰う側として、そわそわするものだけど、…今年はちょっと違う。
それこそ企業の新しい策略なんだろう。最近CMで見る「逆チョコ」というのは。製菓メーカーの市場戦略なのは百も承知。でも僕にとっては絶好の機会。世間の流行に流されるまま、企業の掌の上で踊ってみるのも悪くない。

いつもとは少し違うそわそわを心地良い。どうか今日だけは閉店間際にややこしいお客さんが来ませんように!と願いながら、僕は閉店作業をし始めた。


結局あれから特に問題もなく無事閉店作業を終わらせて。バイトが終わってすぐ留三郎に連絡しようと鞄から携帯を取り出す。時間を確認したら九時前。今日は少し早く上がれたかな、等と思いながら電話帳から留の番号を呼び出す。登録カテゴリーは“友達(高校)”。“友達”だった登録の1つに、専用の着メロと画像を設定したのはいつの頃だっただろうか。呼出中の文字とその画像を確認して、携帯を耳に当てる。無機質な機械音を発するそれは、冬の空気に冷やりとしていた。

トゥルルル―トゥルルル―

一回、二回、聞き慣れた呼出音が左の鼓膜に反響する。三回、四回。五回目の音を半分聞いた後、もしもし、と留三郎の声が耳に届いた。

「伊作、どうした?」
「あ、今からちょっとだけ留の家行っていいかな?」
「おう、気を付けて来いよ」
「うん。じゃまた10分後に」
「ああ」

本当に用件だけの会話を済ませ、すぐに車のキーを回す。
バイト帰りに留三郎の家に行く事はさして珍しい事では無いし、行くまでの10分を長く感じる事もやはり珍しい事では無いけれど。でもやっぱり、気持ちは逸るもので。若干スピードメーターを気にしながら、僕はもう点滅になった信号を通り過ぎたのだった。
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