忍者のたまご‐現パロ部屋

□バレンタインの在り方は
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留の家の近くに車を止めて、メールで一言「着いたよ」とだけ連絡を入れる。少しして玄関口に小さな明かりが付いて、ガラガラと扉が開く音が聞こえた。その音を合図に、僕も車から降りる。たかが10分しか走らせていない車はまだエンジンが暖まっていないのか暖房も効いていない。そのせいか車から降りても特別寒いとは感じなかった。

「留、遅くにごめんね」
「いや気にするな。寒いだろ、家入るか?」
「ううん、これ渡しに来ただけだから」

と、車から降りる時に一緒に持って降りた紙包みを差出す。今日バレンタインだから、と差出せば留は少し驚きながらもありがとなと受けとってくれた。

「伊作が作ったのか?」
「一応。味に保障は出来ないけどね?」
「…材料も自分で買って来て?」
「ん?うん、そうだけど?」

歯切れの悪い質問の内容から、留の意図は何となく汲み取れる。

「なんかね、今年逆チョコってのが流行ってるんだって。男が女の子に渡すっていう、」
「あー、何かそんなのテレビで見た気もするな」
「だからそんなに気にならなかったよ」

ならいいけど、と続くその言葉は世間体を気にしての事だろう。男がバレンタイン前にチョコレートを買うなんて、今年だからまだ良かったものの、去年までならレジの人にえ?っていう顔されたに決まってる。
…と言っても、やっぱりそんなのに踊らされる人はそう多くない。既製品ならまだしも板チョコと生クリームと、と材料を買う僕はかなり珍しい部類なのだろう。顔には出ていなかったものの、レジの人に二度見らしき事をされたのは黙っておこう。

「…やっぱり、家入るか?」

話しながらも手を擦る僕が寒いと思ったんだろう。ん、と玄関を促す留三郎の言葉はとても嬉しかったけれど。

「ううん、もう帰らなきゃ。明日は早番だし」
「そうか、気を付けて帰れよ…後これ、ありがとな」

それさっきも言ってくれたのに、と思いながらも、喜んでくれたのかと思うと自然と口元も緩む。

「ホワイトデーは三倍返しだからね?」
「っ、…分かった」

ふふ、と笑いながら車に乗り込んでキーを回す。
またな。うん、また。と軽い言葉を交わして、僕はアクセルを踏んだ。夜も遅くて辺りは暗いけれど、留は僕の車が見えなくなるまで見送ってくれているのを知っている。
家まで大体30分。今度は車の暖房も効いてくるだろう。確かに体は冷たい。ハンドルを握っている手なんて、感覚が鈍くなっているぐらい冷えているけれど、僕の心は暖房なんていらないぐらい暖かかった。


留三郎からの「美味かった」と言うメールを見て、僕の顔が今日の中で一番緩むのは、もう少しだけ、後の話し。


‐終


現パロに留さん初登場です。普通に高校生だったり大学生だったりしてもよかったかなとも思うんですが、車に乗るいさっくんが書きたかったので。
いさっくんは料理もそこそこ出来る気がします。飛び抜けて上手いわけじゃないけど、まあそれなりにと言う感じで。


Happy Happy Valentine's Day!
*2009.2.15

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