忍者のたまご

□六花に消えたその言葉
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時は子の刻を僅かに回った頃だった。
蝋燭の灯を頼りに、今日…ああもう昨日か、の授業の復習と次の授業の予習を少し終わらせて。
明日は実技だけで座学は無いし、それに備えて少し早めの就寝につこうとしていた時。

障子の外からがたり、と物音がした。とっさに体を緊張させ気配を探ると、その気配はよくよく知ったものだった。

「文次郎、もう帰ってきたのか?今日はずいぶんと早いじゃないか」
「…降ってきた」

何が、と聞かなくても、屋根を叩く雨音がしない事から、主語に当たる単語は明らかだった。

障子を開けて縁に出ると、部屋の前で文次郎が上を見上げてたたずんでいた。
隣に並んで、同じように空を見上げる。

ふわりふわりとゆっくり降りてくるそれは、まだ冷えきっていない夜の空気に、地面に落ちると、すぅっと溶けた。
しかしこの分には朝にはきっと積もっているだろう。

「寒い、な」

ふるりと体を震わせて腕を擦ると、後ろから感じ慣れた体温に包まれる。

「まだ寒いか」
「さっきよりましだ」
「…そうか」

私を包む腕に軽く、だが先程より力が入る。触れるだけの体温がより近くに感じた。

「仙蔵」
「なんだ」
「   」
「…知っている」

何時ものこいつらしからぬ、まるで、あの地に落ちた雪のようにすっと消え入ったその言葉に、驚きつつも身を任せる。
まだ積もる気配の無い雪を眺めながら、あと少しだけならこうしていてもいいかと、思いを巡らしていた。


‐終


時間軸としては『そして白く降り積もる』の前の話。
六花は雪の結晶の事です。

ギンギンな文次も好きですが、格好よく書きたいのに…!文次難しいよ!
片方が忍者服、片方が寝間着っていうのが個人的に凄くもゆるのです…*


*2009.1.21


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