忍者のたまご

□真綿の呪縛
1ページ/2ページ



とある城への潜入捜査――それが今回の俺たちに与えられた課題だった。忍務の内容からして、今回は少し長期の忍務になりそうだった。

しかもただ潜入してくるだけではない。一人囮としてわざと捕まり、その隙にもう一人が忍務をこなす、そんな危険な忍務だった。
卒業間近のこの時期になると、忍務の危険度も期間も厳しいものになってくるのは毎年の事。俺の先輩たちもこの時期になると会える頻度も格段に減り、時折会えても身体中に傷を負っている事も珍しくなかった。

そんな危険な忍務。それに一応は成績優秀なあいつが選ばれるのも、さして珍しい事では無かったのだ。


真綿の呪縛


あいつが囮として捕らえられてから二週間近くが過ぎていた。俺はというと、着実に忍務をこなし、忍務完了ももう間もなく。明日にはあいつを迎えに行けるだろう。

一週間前にあいつに内緒城に進入してこっそり様子を見に行った時は、身体中に痣が有り衰弱はしていたものの、命に別状は無さそうだった。
そこの城は特別悪い噂を聞くような城ではない。現状維持なら取りあえず心配は無いと判断し、そのまままた忍務に戻ったのだ。


恙無く忍務を終えて、俺はその日の内にあいつを迎えに行く準備を始めた。
苦無、手裏剣、愛用の武器…は置いていくか。後は追跡者用のまきびしに、目眩ましの煙幕。戦闘になる確立はあまり高くない。そんなに重装備でなくともいいだろう。

「よし!」

忙しなく部屋で準備をしていた俺を尻目に、衝立ての向こうでごりごりと薬を調合してるらしき音をさせていた伊作が不意に声を上げた。
大方、薬の調合が終わったんだろう。さらさらと粉末を袋に入れる音と他にもごそごそと何かをしてる音が微かに聞こえたと思ったら、衝立ての上からひょいと伊作が顔を出した。

「行くんだろ?」
「ああ。そんなに手間取らず戻れると思う」
「じゃあこれ」

そう言って掌に収まる程の白い袋を差出してくる。さっきのはこれだろうか。何だと思いつつも受け取ったそれは、思いの他軽かった。

「きっと文次郎怪我してると思うからさ、傷薬と化膿止めの軟膏。後、腫れを抑えてくれる薬草少し入れといたよ。良かったら持ってって」
「、助かる」

こう言う時、伊作はよく気がきく。特に今回は当事者じゃ無いからと言うのもあるんだろうが。
と言うか、あいつが少なからず怪我をしているのは分かっていたのに、薬等に気が回らないぐらい俺は気が急いていたんだろうか。

「行ってくる」
「うん、気を付けて」

伊作から貰った薬袋を懐にしまい込んで、俺はあいつが捕らえられている城へ向った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ