忍者のたまご

□やさしい時間
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久々の休みだというのに、朝っぱらから用具委員会顧問の吉野先生に呼び出されたのが今から二刻ほど前の事。何でも、長屋の屋根が壊れたから直して欲しいと。修理道具を持って行ってみると、壊れた場所と火薬の臭いから壊した奴らは明らかだった。
壊れた場所は屋根の端の方で、範囲は狭いが足場が悪い。危ない作業を一年生達に手伝わせるわけにもいかず、作兵衛と二人だけで作業をするはめになり、直すのに思ったより時間がかかってしまった。
それでも何とか修理し終わり、(修理中ずっと作兵衛が怯えてたようだったが、そんなの気にしていられない)道具を片付けて、早足で戻る。

…今日は伊作と団子を食いに行く約束だったのに!

(くそっ…文次郎のやつ。来期は三倍の予算ふっかけてやる!)
(大体なんであいつ等はこんな早くから喧嘩なんてしてるんだ。どうせ痴話喧嘩だろうが)

ぶつぶつと文句を言いながら早足で長屋に帰る。自分の部屋までもう一間というところで、少しだけ障子が開いているのに気が付いた。今日は何時もより暖かいし陽射しもいい。別に締め切っていないといけない程の気候では無いけれど。問題は中にいるやつの格好だ。一緒に出掛けるはずだった同室者――伊作が、薄っぺらい掛け布団を抱える様にして眠っている。
確かに今日は何時もより暖かいが、それはあくまで何時もより、という話で季節的にはまだまだ寒い。
このままでは風邪でもをひいてしまう。保健委員長のお前が率先して風邪なんてひいてどうするんだ。後輩達に示しがつかないだろう。

「伊作、起きろ」

軽く肩を揺さ振って声を掛けると、少しくぐもった声を上げて目を開けた。

「…留?…あ、僕寝ちゃってたんだ…」

どうやら一旦起きた後に二度寝をしてしまったらしい。開いた障子と掛け布団が上に掛かっていないのが、起きようとした名残なのだろう。そういえば、俺が部屋を出る時、伊作も何となくだが起きていた。
でも、仕方ないと言えば仕方ない。最近はもう卒業に向けて殆どが本格的な実習ばかりで、心身共に疲れきっていて当然なのだ。それでなくてもこいつがする事は、穴に落ちたり何かが降ってきたりで人の二、三倍は手間が掛かってしまうわけだし。それに昨晩は……いや、こんな日の高い内から思い出す事じゃない!

「出掛けるのはまた今度にするか?」
「ううん、行く」

あえて同意を求める様に尋ねてみたが、伊作はまだはっきりと開かない目をしたまま首を振る。俺だって、久しぶりの休みなんだから、伊作と出掛けたいのは山々だ。目を擦り、しぱしぱと瞬きをして必死に目を覚まそうとする伊作は確かに可愛いのだが、ここは無理をさせたくないをいう気持ちの方が大きかった。

「…伊作」

とろとろと身支度をしようとする伊作の手を引っ張り腕の中へ収める。

「いいから、もう少し寝てろ。昼頃には起こしてやるから」
「でも、そうしたら出掛ける時間短くなるし」
「出掛けるのは次の休みでもいい」

な、と無理に同意を求め、子供をあやす様に背中をぽんぽんと軽く叩いてやる。陽気な気候、まだ僅かに暖かさのある布団に俺の体温が相まって、伊作の瞼はゆるゆると下がって行った。
伊作をきちんと布団に入れ直し、掛け布団を掛ける。その横には既に畳まれて、もうとっくに温かみが失われている俺の布団。

…まだ昼飯には程遠い時間だ。

(頼まれていた棚の修理でもしようか)
(でもうるさくしたら伊作が起きちまうかもしれないし)
(静かに出来る作業…何かあったかな)

俺は持て余した時間をどうしようか、すぅすぅと寝息を立てる幸せそうな顔の同室者を見て思いを巡らしていた。


‐終


某素敵サイトさまの、チャットのログ流しで書かせて頂いたものにちょっとだけ加筆修正。

さて、留さんは昨晩伊作にナニをしちゃったんでしょうね^^?←
いさっくんは朝あんまり強くないといいなぁと思います。

ちなみに「一間(いっけん)」は1.8mぐらいです。


*Title by狼傷年
ありがとうございました!

*2009.3.29


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