忍者のたまご
□後ろ姿に恋をした
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その姿を見るのは、もう何度目なんだろうか。
そんなに頻繁なわけでは無いが、例えば季節の変わり目、特に秋から冬にかけて。それはよく目にするようになる。
竹谷が…学園の隅でしゃがみこんで、じっと手を合わしている姿を。
(ああ、今日もあそこにいる。)
学園の隅にひっそりと作られた、生物委員が世話をしていた小動物や虫達の、お墓。
「竹谷、」
「…久々知。こいつ、最近弱っててさ、」
「うん」
振り向かず、言葉だけを返してくるそいつの背中は、やけに大きく感じた。
こんな事、前にも感じた事がある。
昔、と言ってもそんなに前ではない。あれは四年の時だっただろうか。…聞いてみたことがある。そんなに手を掛けていたら、いなくなった時悲しくないか、と。あいつは何言ってんだお前、みたいな顔で、手を掛けるから悲しくないんだ、言っていた。
その時は分かったような分からないような感じだったけど、年を重ねるごとに何となく解ったような気がする。
これは、その時に感じたあの感覚に、似ている。
少し離れたところで竹谷の方に視線だけ向けると、視界の端にあいつが映る。
ああ、こいつの背中はこんなに広かっただろうか。
三年に上がった時の身体測定で、竹谷に身体を抜かれたのが密かに悔しかったのを覚えている。(口には決して出さなかったけど。)一、二年の頃は殆ど一緒だったのに。
その背を見ながら、絶対に追い付いてやると思った四年の時は、差がますます付いていて落ち込んだ。
――そして五年。俺たちの体格差は明らかだった。
だけどきっとそれは、体格の所為だけではないんだろう。小さな、だけど幾つもの死を見てきたのだから。
忍びとして、死はいつでも身近にある。でも竹谷は、もっと多くの小さな命が潰えるのを見てきている。
虫や小動物たちの死はあまりにもあっけない。死なせる気が無くても、ちょっとした不注意で死んでしまう事だって、よく有る事なのだ。
生物委員として、長い間それを全て背負ってきたのだ、広くない訳が無い。
「…よし!」
ひとしきり拝み終えたのだろう、立ち上がっていつもの顔でにっと笑う。
「飯、行くか」
「ああ」
二人並んで、今日のおかずなんだろうな、俺豆腐田楽がいいな、またかよ、そんな他愛無い会話をしながら食堂に足を向ける。
俺がこの不思議な感覚の名前を知るのは、もう少し後の話。
‐終
いい男は背中で語るんだ…!竹谷の後ろ姿は絶対イケメン(面じゃないけど)だと思うのです。
久々知は恋とかそういうのには疎そう。
委員会は年や期で変わったりするそうですが、そこは華麗にスルーです(笑)
しかし、この時代に身体測定とかあったんですかね?
*2009.1.30