忍者のたまご

□そして白く降り積もる
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それはある冬の日。
障子ごしに、目蓋ごしに届く光に、僕は思わず目を醒ました。
初めは寝坊してしまったのかと慌てたが、長屋はしんとしていて、人が活動している気配はない。何より隣にはまだ留三郎が静かな寝息を立てている。

明るい、でも冬の柔らかい太陽の光ではない。おそらくいつもならまだ浅い眠りの中に居る頃なのだろう。
まだ回り切らない思考を出来うる限り回すと、一つの結論に辿り着く。

――僕は半纏を羽織り、留三郎を起こさないようにそっと部屋の障子を開けた。

そこは、いつもの景色が真っ白に染め上げられていた。白、いや銀の方が近いだろうか。朝日を受けて、きらきらと雪が反射している。僕が目を醒ましたのは、この照り返しの光だったのだ。

雪が積もったのはこの冬になって初めてだった。
今までもちらほら降ってはいたが、積もるまでには至っていなかったのだ。しかし近ごろは寒さもかなり厳しくなってきていて、つい先日、留三郎とそろそろ積もるかもね、などと話していたところだった。


積もった雪への期待と照り返しの眩しさに雪の日の特有の寒さが加わり、目はいつの間にか覚めていた。

下履きを履いて下に降りてみる。そんなに深くは積もっていない。足の甲まで埋まらないぐらいだろうか。
歩くとざくざくと雪が詰まる音がする。底から冷たさが伝わって来て、足がじんと冷えるが、まっさらな地面に自分の足跡だけが付いていくのは、童心に戻ったようで楽しかった。

そんな事をしていると、す、と障子の開く音がする。

「伊作、おはよう」
「あ、留おはよ。ごめん、起こしちゃった?」
「いや、そろそろ起きる時間だしな。」

半纏を肩に引っ掛け、縁まで出てくる。そろそろだとは思っていたけどな、と縁の端に微かに積もった雪を手で除けた――その時。

「伊作、上!」
「え?」

留三郎が叫んでこっちに向うと、僕が上を見上げるのと。そして上からざざ、音がするのは同時だった。


――気が付くと僕らは屋根から落ちてきた雪で、白い景色の一部となっていた。

「っ…」
「冷た…っ」

見事な迄に雪を頭からかぶった僕と、僕を助けようと出て来た為にやっぱり雪を頭からかぶってしまった留三郎。
無事なのは、飛び出した時に縁に取り残された留三郎の半纏だけ。

「伊作、大丈夫か?」
「うん、ごめん…」
「謝んなよ。いつもの事だしな」
「いつもの…こと、」

もう、二人で笑うしかなかった。

「部屋、入ろうか」

そろそろ皆起きてくる頃だ。さすがに寒いし、いつまでもこんなとこに居るわけにはいかない。あらかた雪を落として、僕は留三郎にそう促す。
縁に上がろうとしたら手を捕まれ、留三郎優しい口付けが降ってきた。

「留の唇、冷たいね」
「伊作のもな」

そう言って、くすりと笑う。
雪の中でも交わしたそれは、音も無く、まるで雪に吸収されたようだった。

幸せと雪は似ている、どこかで聞いた事があった。
どちらも白く、上から降ってくるのだと。

(幸せ、だなぁ)

そんなことを思いながら、二人で部屋に戻って、朝支度をする。
それから、小平太のはしゃぎ声が長屋に響くまで、半刻もかかりはしなかった。


―終
(降ってきたのは雪か、それとも)



は、初忍たま話です…!小説っていうより練習って感じなんですが…、カタカナ使わないの難しい!皆の口調と一人称がまだイマイチ分からない!(爆)
留さんがちゅーしちゃったのは、雪の中のいさっくんがあまりにも可愛かったからだと←

寝間着で半纏肩に引っ掛けた留さんはナチュラルにカッコいいんだろうなぁと思うのです(*´`*)


*2009.1.19


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