The Song for OWLS

□八、棲ミ家
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ここは知らない場所の筈だ。あの日燃えたんだ。全て。
 けれども、今私に見えている天井は、私が生まれ育った城の天井だ。間隔、木目、日の当たり方。同じだ。
 夢の中、いや寧ろ浄土か。

 首を回す。指を動かす。
 回るし、動いた。どうやら浄土ではない。
 反対側に首を回す。

 千加がいた。
 短い髪が首筋にかかり、小さな寝息を立てている。閉じた瞼を縁取る睫は長く、軽く開いた唇は紅い。
 私はゆっくりと身を起こし、自分に掛けてあったものを千加に。
 障子は開け放たれていて、心地良い風が吹いてくる。私は傍らにあった刀を腰に差す。見れば見るほど稲方の城、私の部屋に似ている。
 縁側に人影を見た。
 腰を掛け、和み語らう人影。父上と、母上の御姿。
 
「翔太郎様」
 頭を下げ、肩を震わせていた翔太郎に声を掛ける。はっとして翔太郎は目をこすり、千加の方へ振り返った。無論、父母の姿などない。
「すまない…みっともない所を見せてしまった」
「いいえ」
 千加は静かに言う。
「この部屋は今、術がかけられているんです。そういう思いになるような」
 懐古の念。自分の心安らぐ光景を見させる、そのような術。
 
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