あなたとわたし、100の恋

□19
1ページ/1ページ





―――……うそ、だ。


「…ほんとうに?」

「おう!本当だぜ!」



切原に放課後教室に少し残ってほしいと言われた。

わたしの切原は1年の頃が仲がよく、よく言い合ったりする仲で。
一番近くにいる異性である切原にわたしが恋をするのに、時間はかからなかった。


だから、ちょっと期待していたんだ。

告白なんじゃないかって。
切原の一番が、わたしなんじゃないかって。

けど、結果は。




「あっちが告白してくれてさ。付き合うことになったんだ」




『彼女が出来た』と。
その一言の報告だった。

ずしんと重くのしかかった言葉を理解するのに数秒かかった。
彼女は隣のクラスのかわいい小動物みたいなふわふわした女の子。


話してるところ、見たことないよ?
そんなんでいいの?


言いたい言葉を飲み込んで、そっか、と一言。
否定の言葉を出したところでどうにもならないことはわかってる。



「よかったじゃん」

「おう!ちょー嬉しくてさ、奈々に一番に報告したくて!!!」



そんな、しあわせそうな笑顔で言われたら。嬉しそうな声で言われたら。どうすればいいの。

切原にとって、わたしはやっぱり一番だった。
だけど、その立ち位置はわたしとは違って『友達』の位置にいた。
少しでもわたしと一緒だって思っていた自分が恥ずかしくて、悔しい。




「…おめでとう」




笑えなかったけど、やっと出せた祝福の言葉に「ありがとな!」。
わたしの表情に気付かないくらいに、切原はいま舞い上がっている。本当に、嬉しいんだなあ。



「待ってるんじゃないの?彼女」

「あっそうだった!わりー、ありがとな!」

「うん。また明日ね」

「おう!んじゃな!」



かばんを持って教室から出ていった。
パタン、としめられた教室のドアの音を聞きながら、わたしはイスに座った。

ボーっと外の風景を眺める。
オレンジ色の光を背景に、いままでの切原との思い出がフラッシュバックされて行った。



始めて話したときのこと。

席が隣になったときのこと。

プール掃除じゃれて2人でケガしたこと。

授業中話しすぎて先生から注意受けたこと。

給食のおかず取り合ったこと。



切原が笑った会話。

笑った声、顔。




「………っうう…っ」




ああ、わたし、こんなに切原のこと好きだったんだな…。
止まらない涙を隠すように顔を両手で覆った。


切原、わたし、すんごい好きだったんだよ。とっても好きだったんだよ。
でも、好きだけじゃ一緒にいられないんだね。

付き合いたかった。ずっと一緒にいたかった。
だけど、でも。



浮かんでは消えていく切原との思い出。
人は死ぬときに今までの人生が走馬灯のように頭を駆け巡るっていうけど、いままさにそんな感じ。

…そっか、これが、失恋なんだ。

切原への好きって気持ちを消していくための、フラッシュバックなのか。そう思うと余計に悲しくなって、もっと涙が溢れた。



ケンカした時とかムカついたし、悲しいことも辛いこともあったはずなのに。

笑い合って、幸せだったときのことしか思い出せないんだよ。



切原。

わたし、切原のこと好きになってほんとうによかった。













大好きって言えたなら

(わたしはあなたの隣にいれたかな)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ