あなたとわたし、100の恋
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私は今まで自分が財前より劣っているものに関して、彼に相談したことはなかった。
彼の発言には痛々しいほどのとげがあるし、メンタル粉々にされんねん。
そのなかでも、一番歴然と差があったのは英語。
それなりに頭の悪い私と、授業中寝とるくせに頭がええ財前。
何かと私の上げ足を取って馬鹿にしてくるし、ほんま嫌やってん。これだけは。
「そんなんも出来んのか」
ハッと笑った男を私は思いっきり睨みつけてやった。
やから嫌やったんや。財前に教えてもらうとか、もうプライドもメンタルもボロボロになることは目に見えとった。
それでもこの状況を貫かねばならなくなった理由は、私の内申が、赤点になりそうやったから。
「だ、だって出来へんもんはしゃないやろ!」
「中学の勉強から躓いとって…先が思いやられるわ」
はぁ、と馬鹿にしたようにわざとらしく眉を下げて溜め息を吐いた財前に私はもう怒り爆発寸前や。
先生が財前に「教えたれ」なんて言わへんかったら、クラス1位の田中くんとかに教えてもらえたかもしれへんのに…!
田中クン優しいから絶対わかりやすく教えてくれた…!!
「ここはDoで、三人称やから単数形でDoesになんねん」
「な、なるほど…」
…財前の教え方も十分わかりやすいけど。
隣の席やなかったら、きっと先生は財前に頼むことなんてせぇへんかった。
周りの女の子たちはすごく羨ましそうやったけど、それは財前の本性知らんからや。
そもそも何故私はこんな奴と仲よくしとるんやろう。私が大人やからか。そうか。
「いたっ」
「ボーっとしてんな」
「やからって叩く必要ないやろ!女の子に暴力はアカンで!」
「どこに女がおるん」
私への扱いが酷過ぎる。
他の女の子にはこんな扱いしない。絶対にしない。
財前の言葉に胸を痛めつつも、頑張って問題を解いていく。
「お、終わったー!」
シャーペンを勢いよく机に置いて、大きく伸びをした。
ぐーっと伸びをして時計を見れば、もうすぐ完下の時間。
こんな遅くまでやってたんや…。
こんな少ない問題数で何時間かかっとるんや、とか言われそう。
「ふーん……やれば出来るやん」
私のプリントを見るなり、柔らかい表情でそう言った。
言い返す言葉を考えていた私は予想外のことにビックリ。
こんなに遅くまで付き合わせたのに、何も文句なしに。
…変なとこ優しくて、調子狂うわ。
「ほんなら、帰るか」
「おおきにね、財前」
教室の電気を消して、教室を出たときに。私は珍しく、お礼を言った。
授業中に助けてくれたりとか教科書を見せてくれたりとか宿題教えてくれたりとか。
本当は普段から、感謝しとった。
本当は優しいやつなんや。
ただ認めなくなかった。毒ばっか吐くから。
やけど、今日ので財前のこと見直した。
「……………気色悪」
「っはぁ!!?」
せっかく、お礼言ったのに…!!
フイッと顔を背け歩き出した財前の後ろを、文句を言いながら私はついて行った。
やっぱコイツ……嫌いや!ふんっ!!
そういう意味を込めて、空のペットボトルを投げつければ。
見事に頭に当たって、再び投げ返された。
嫌いなところも全部好き
(それでもやっぱり送ってくれたりされると)
(優しいなぁと思ってしまう)
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