あなたとわたし、100の恋

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※切なめ





正直言って厳しい毎日だった。

連覇を重ねる度に増すプレッシャー。
俺たち最後の夏の大会も優勝出来れば、中学校生活全て優勝という偉業を成し遂げることが出来る。

いや、優勝以外は、許されない。

報道陣もそれを期待している。
優勝以外は、非難されることは間違いないだろう。
だからこそ、






「別れよう」






俺は、テニス部のために彼女を切り捨てることに決めた。


――…んだけど。




「……え?」




その言葉を先に発したのは、俺じゃなくて彼女の奈々だった。
冬が一気に近づいた風の冷たい、ある日のことだった。

温かそうなマフラーに顔を半分隠して、眉を下げてヘラリと笑う。
何とも痛々しくて、目をそむけたくなった。




「急に、どうしたの?何かあった?」




別れようと覚悟を決めたはずなのに。
何故か俺は動揺してその言葉の意味を聞き返していた。

おかしな話だよね。
勝手に自分で別れると決めていたくせに、彼女から話を振られたら信じられなくて別れたくない、なんて思ってしまうんだから。

奈々は目を少し伏せて、ヘラリと笑う。




「私、知ってたの。精市が無理してるんだってこと」

「無理なんて…」

「してる、してるよ。だって精市、いつも辛そうだもん」




思えば、俺から告白して奈々の彼氏になったっていうのに、何も彼氏らしいことしていない。

どこにも連れて行けなかった。
記念日も一緒にいてやれなかった。
毎日のメールも、疲れて1、2通しかやり取りしてあげられなかった。


これから……そうだ、これからだ。
これからしてやればいい。

俺はなんて事を考えていたんだろう。
好きな女の子を大切にしないで、何を。






「そんなことないよ。それに、俺が無理をしていたとしても奈々と別れる理由はないだろ?」

「…私、いつも頑張ってる精市を見て支えてあげられたらなぁなんて考えたりしたんだ」






少し短めのスカートを握り締める。
柔らかい色の髪が風に揺られて、ふわり舞う。

大好き、大好きだ。
ずっと一緒にいたいんだ。
どんなに辛くても、苦しくても、奈々の配慮があったから癒されたというのも事実なんだ。

別れる必要なんてないじゃないか。




「私がいたら、精市はきっと倒れちゃう。私が重荷になって、連覇の夢が遠ざかると思うの」

「そんなこと言うなよ。そんなはずない!」




俺が声を荒げたことに驚いたらしい。
奈々は驚いたように目を少し瞬かせた。

その後、嬉しそうにふうわりと目を細める。




「精市はいつも優しいから。相手のことを優先して考えられる人だから」

「奈々、別れるなんてそんなこと――」




その時、奈々は俺を優しく抱きしめた。

驚いた。
奈々から触れたことなんて、一度もなかったから。

少し背伸びをして、俺に口付けをする。




「…精市はきっと、私の気持ちを優先してくれると思うの。優しいから…」




いつもの柔らかい笑顔で笑ってくれてるはずなのに。

目に溜まっている涙を見てしまったら、それが嘘の笑顔だなんてすぐに気がついて。






「だから、私は精市の気持ちを優先させてあげたい。ずっと夢見た3連覇を私が潰したくないよ」






奈々が俺の頬に触れる。
その手をすごく冷え切っていて。

奈々の優しさに触れた俺の目からは、一筋の涙がぽろりと頬を伝った。

困ったように笑った。
それは俺が意地悪言った時によくする顔で、その顔大好きだったなぁと思い出す。






「大好きだよ、精市。でも、しばらくの間はさよならだね」






俺がもっと強かったら、彼女にこんな顔をさせることなんてなかったのにな。












さようならは、あなたのくちから
(必ず、迎えに行くから)



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