あなたとわたし、100の恋

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私の彼氏は、酷いヤツです。


皆さん聞いてください。

彼女の私との約束よりも小春ちゃんとの用事が優先。
何度もデートが潰れた。
それで何度もケンカをした。

結局小春ちゃんに怒られたユウジから謝ってくることがほとんどだったけど。
でもそれは小春ちゃんに言われたから謝罪したのであって、ユウジの本心ではない。


それから、甘い言葉をささやいてくれたことも一度もない。
『愛してる』どころか『好きだ』とも言ってくれなかった。

付き合うとなった時も、「俺と付き合え」と命令口調だった。
何でお前なんかと、とか思ったけど幸せすぎて涙が出てしまった。

今思えば、私は馬鹿なんじゃないかと思う。
ユウジの気持ちも聞かないで付き合ったことをすごく後悔している。
未だに何故ユウジが私と付き合っているのか不思議でならない。


あと、私のことをよくパシリ扱いする。

あれ作れ、だとか。これ取ってこい、だとか。それ買って来い、だとか。
全部私にやらせる。

何で私がと思いつつやってあげちゃうのはユウジのことが好きだからで。
今思えば甘やかしすぎたし、もっと私も我儘言ってやればよかったと思う。




「おい、」






こんなことになるなら、もっと我儘言ってやればよかった。






「おい、起きろ。いつまで寝てんねんドあほ」





ユウジのこと、めっちゃ困らせてやればよかった。
叶えられないような願いとか言ってやればよかった。

そんですっごい困らせて、その様子見て大爆笑すればよかった。
何か、ユウジを困らせられるような言動はないかなぁ。




「おい、…っ」

「起きてるわ、あほユウジ…」




何でそんな顔しての。あほ。
生意気で捻くれてるのがユウジじゃん。
何柄にもなくそんな悲しそうな顔しちゃってんだか。超面白いんだけど。

私が声に出して少し笑えば、ユウジは「何笑っとんねん」と少し私を睨んだ。




「ユウジも泣くんだなぁって思って」

「俺やって人間やで。馬鹿にしとんのか」

「あはは、してない、よ」




何でそんな後悔ばっかりです、みたいな顔してんの。
やめてよ。私すっごい幸せだったんだよ。

病気のこと言ったらね、ユウジは絶対優しくしてくれるだろうなぁって思ったよ。
だけど、私はそれでも言わなかった。
最後までいつも通りに接していたかったんだよ。

最後までずっとずっと、ケンカしてもいいから、あのまま。




「何で、そんな顔してんの」

「…俺は馬鹿でどうしようもないわな」

「知ってる」

「お前に何も伝えんで。言いたいことも言わんで」

「私は言ってたよ」

「単純さと素直さが取り柄やもんな」




誉めてるのか、それは。

息をする度に、変な音がする。
ユウジは私の手を強く強く握って、頬を撫でた。




「なぁ、今の気持ち素直に伝えるわ」

「何それ。言えるの?」

「お前馬鹿にしとるやろ」




だって、信じられないもん。

捻くれてて不器用のユウジが、素直に自分の気持ちを伝えられるなんて。






「なぁ、奈々。――…死なんで、」






その言葉を聞いて、胸が苦しくなった。
じわじわと涙が溢れた。


ほら、また。

私を困らせることばかり言って。


何カ月も積み上げてきた思いが一瞬で崩れた。
ユウジの一言で、私は死にたくないと思ってしまった。

酷いなぁ。本当、酷いなぁ。

言わなくてもね、わかってたよ。
ユウジは私のこと好きでいてくれてるって。
だって彼女だもん。わかるよ。


私を握り締める手が震えてて、すごく痛かった。












ごめんなさい、ありがとう
(最期まで我儘ばっかり)



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