あなたとわたし、100の恋

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「へへっ!こんなんどうだ、外堀!」

「あーもー切原くん!遊んでないで早くやろうよー!!」





憧れの切原くんと2人きり。in家庭科室。

家庭科の問題児(らしい)切原くんに、私は今先生の代わりとして指導中。
先生は出張で、だけど提出期限は今日まで。




"なぁ、手芸部だろ!?この通りっ!"

"え、でも部活が…"

"今日先生出張でいねぇじゃん!バレねーって!なっ?"




あんなに必死に頼み込まれたら、断れないよね…。しかも相手は切原くんだし。

確かに、今回作ってるポシェットはちょっと難しいものだったから。
問題児と呼ばれてしまう切原くんが出来るかどうかと言われると…失礼だけど、すごく厳しいと思う。


切原くんは、毎日部活頑張ってるし。
赤点取っちゃったら大会に連れてってもらえないみたいだから。

切原くんの頑張りを無駄にしない為にも、私が!!




「だって、出来ねぇんだもん」

「やれば出来る!」

「そーかなぁ…」

「ほら、一緒にやろ?」




私も、同じように切り取った布を持って、切原くんに見せる。
切原くんも渋々と言った様子で、自分の布を掴んだ。

針を通して、紡いで。

1つ1つ丁寧に教えていく。
だけど、彼の不器用さは天下一品だったようだ。






「…もう無理ッ!性にあわねぇんだよ!!」






ウガー!!と布を机に叩きつけて、頭を掻く。
ジッとしているのが大嫌いで、地味な作業も嫌いらしい。まぁ、男の子だもんね。

少し切原くんから目を離せば、糸で何やら遊んでいた。






「切原くん、頑張ろうよー!赤点取っちゃったら大会行けないんでしょ?」

「……こんなはずじゃなかったんだけど…」

「え?」






小さく何か呟いた切原くん。
私が問いかけるように首を傾げて「何?」と切原くんに近づく。

切原くんは机に顎を乗せたまま、上目遣いで私の方を見た。
その仕草が可愛くて、思わず、きゅん。




「なぁ、わかってる?今2人きりだぜ」

「そ、そう、だね」

「他に手芸部いんのに、外堀に頼んだ理由…わかる?」




た、確かに…私のクラスには他に2人いる。

少なくとも私より女の子らしくて、明るい子。
私よりも切原くんと話している。

なのに…私を選んだ?

言われてみれば確かに引っかかる。




「…席が近かったから?」

「ブッブー。はずれー」

「じゃあ…私が部長だから?」

「え、部長なのかよ!?」

「そうだよ」




知らなかったのか。ちょっと悲しい。
でも手芸部なんて文化部で目立たないもんね…運動部と比べたら。何か実績があるとかじゃないし。仕方ないか。

でも、私が部長だからという理由も外れて。
他に思いつく理由はもう、ない。
切原くんは糸を弄りながら、口を開いた。






「俺らさ、同じクラスになってからずーっと席近いよな」

「うん、そうだねーまだ離れたことないね」

「それってさ、運命っぽくね?」






にぃ!と歯を見せて笑った切原くん。

胸がぎゅっと締めつけられて、私は何かを誤魔化すように前髪を弄りながら少し俯いた。




「そうかな。たまたまじゃない?」


「…何だよ。俺は運命だって思ってんだけど」


「……え、」

「さーて、続きやろうぜ!」




そう言って何事もなかったように針を持ち直す切原くん。
驚いて振り向いた私の目と切原くんの目が交わることは、ない。

聞き間違いだったのか、と少し肩を落として、私も針を持ち直した。




「ここをね、こうして――」


ビンッ!




――…あれ?
糸が張ってしまって動かない。

糸の行く先を目で追うと、ちょうちょ結びされた糸。
その端っこは、切原くんの持っている針で。






「あ、糸が絡まっちゃったのか」






意地悪そうに笑った切原くん。
いやいや、さっき糸弄ってたのってこれやってたんでしょ。全く。



呆れた顔で切原くんを見て、驚いた。












赤い糸は絡まって
(私たちが付き合うまで、あともう少し)



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