あなたとわたし、100の恋

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「はい。ここに反省文をお願いします」

「…はーい、」

「返事を伸ばさない」

「…はぁい」






多少伸びた声に彼は眉をしかめた。
だけど注意はせずに、私の隣に腰掛ける。


今日の反省文は、スカート丈の短さだ。
これでも長くしたのだ。膝より少し高い位置にまで下ろしたのに。
これでもダメだとか、中学の規則はどうかしている。




「…やぎゅ、何でいるの?会議は?」

「今日は欠席しました」

「えぇ、何で!?出てきなよ!」

「見張ってないとあなた帰るでしょう」




ぎくり。

バレたか。
小さく舌打ちすれば、頬を引っ張られた。くそ、地獄耳め。


彼とはクラスは違えど、3年目の付き合いだ。結構濃い内容での関わりで。

1週間で彼に掴まらなかった週など一度もない。
毎日はさすがになくとも、週1でこの部屋に呼ばれる。

しかもご丁寧に教室まで迎えに来てくれたりもして。それもきっと、私を逃がさない為なんだと思う。
あ、それちょっと素敵。






「余計なことばかり考えてないで手を進めなさい」

「…はぁい」






少しくらい夢見たっていいじゃないか。

隣のやぎゅは宿題をすらすらと解いている。
私にはちょっとわからない公式をつかっていた。頭の良さも天と地の差である。


私とやぎゅは正に正反対の存在だと言えよう。
彼が模範生ならば、私は問題児だ。
髪の色も、ピアスも、スカートも。

でも、1年の時に比べれば大分清楚になった気がする。金髪も今じゃ茶髪だ。それも暗い方の。
染めるのだったら黒にしなさいと何度彼にネチネチ言われたことか。
黒髪なんて絶対に似合わないからしたくない。




「少しぐらい見逃してくれたって…」

「何か?」

「べっつにーぃ」




今日も適当に400字を埋める。
彼のおかげで随分文章は達者になった。
同じ言葉をつらつらと並べることもなくなったし、漢字も大分覚えた。

まぁそれは彼がいちいち赤ペンでご丁寧に直してくるからだからだけど。




「ちょっとぐらい、いいじゃんね。出来心なのに」

「それを許してしまっては規律が乱れます」




彼はそう言って、今回も私の文章を赤ペンで直し始めた。

うげ、今日は修正多いな。
頑張ったつもりだったのに。




「そんな堅物じゃ、モテないんだから」

「あなたこそ、そんな格好をしていては彼氏などできませんよ」




紳士な言い方なのに、どこか毒気がある。
爽やかなはずなのに少しムカつくのは何故だ。






「それに、好きな人に好かれなければ意味ありませんので」




――…うそ。



「…いるんだ、好きな人」

「ええ、まぁ。もうすぐ卒業なのでそれまでには告白しようと考えているのですが、なかなかタイミングが掴めなくて」






…へぇ、そっか。
やぎゅにもいるんだ、好きな人。

私はずっと、あなたが好きなのに。






「私、実は――…」






人差し指が、私の口に触れる。

彼は口元に弧を描いて、眼鏡を外して机の上に置いた。

ビックリして目をパチパチと瞬かせていると、彼はにっこりと笑った。












告白はわたしのくちで

(『好きです』、の言葉とともに)
(優しく私の口がふさがれた)



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