短編

□彼女が卒業する日
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卒業の季節といえば皆が思い浮かべるのは春のことに違いない。


かくいう俺も、卒業といえば春―――3月であるという固定概念を抱いていた。


けれど彼女は今日、早乙女学園を卒業していく。



「やはりここに居たか。水に落ちたらどうする」



水を張られたプールに足をつけ、歌を唄う彼女に声をかければ葵はいつものように目を瞑ったままこちらを見た。



「真斗?大丈夫だよ。心配性なんだから」



静かに葵が笑う。


2人だけのプールに葵がぱしゃりぱしゃりと足を動かす音だけが響いた。


葵は生まれつき目が見えない。


その瞳はいつも閉じられたままだ。


だが白く小さな手が紡ぎ出す音楽には万人を感動させる何かがある。


俺も初めて聞いたときは涙が自然と零れ落ちた。


始まりから終わりまで無駄な音は何1つなく、胸の細部まで染み渡る圧倒感。


葵という人間を表すのによく似合う、綺麗で温かい音楽。


彼女はそれを認められて一足早くデビューすることが決まったのだ。



「ねえ真斗」



ソプラノの高い声が俺の名前を呼ぶ。



「わたしね、不安だよ」



初めて聞いた葵の弱音。


たまらずプールサイドに座る葵を後ろから抱き締めた。


恋愛禁止なこの学園で出会った俺たち。


それでも止められなかった。



「でもね、頑張るから。真斗が同じところに来るまで半年間1人で立ち続けるから」



「葵」



「だからね、唄って?」



葵に頷き旋律を紡ぎ始める。


卒業する前に、と葵がくれた俺だけの歌。


静かに歌い終えれば、葵が拍手をくれた。



「わたし、好きだよ…真斗の歌」



「俺は葵の曲も何もかも愛してる」



「……ありがとう。わたしも愛してる」



それから2人で時間の許す限り唄った。






彼女が俺を残して、卒業する日
(必ずそこまで行くと)
(決意を固めた)





2011/11/24
music発売おめでとう!!
諏訪部ボイス最高\(^^)/←

確かに恋だった様よりお題をお借りしました。

 

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