短編

□最上の幸せ
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今日は俺の誕生日だ。


自分で言うのもなんだけど、朝から学校はお祭り騒ぎ。


貰ったプレゼントも収集がつかなくなったので、先生に頼んで部屋を1つ荷物置き場に借りた。


のに。


テニス部メンバーも彼女の葵も、まだお祝いしてくれていない。


不機嫌になるのも仕方ないよね。



「やあ、精市。予想通り不機嫌だな」



「うるさいよ、柳」



葵を探しに柳のクラスに行けば至極楽しそうな柳がいた。



「葵なら居らんぞ。今日は晴れて居るしな。屋上にいるやもしれん。まったく、さぼるなどたるんどるぞ!」



「はは、仕方ないよ。葵だもん」



真田が怒りながら言う。


うん、今日も今日とて葵は自由奔放らしい。


葵を自分の思い通りに出来る日は来るのだろうか。



「そうだ、精市。誕生日おめでとう」



「俺たち2人からのプレゼントだ」



2人が大きな箱をくれる。



「うわあ、すごく大きいね。ありがとう」



俺はそれをありがたくもらうと、これからもよろしくという2人に笑顔を向けて屋上へ向かう。


この際だ、一時間目はさぼってしまえ。


屋上にたどり着くと、葵の姿はなく代わりに目立つ赤と銀が俺を出迎えてくれた。



「よー幸村。葵ならさっき部室に行っちまったぜよ」



仁王が気怠そうにそう言う。


まったく、もうすぐ高校も卒業なのに相変わらずだなあ。



「あ、そーだ幸村くん!ハッピーバースデー」



丸井が真田たちに貰ったプレゼントの箱の上に箱を置く。



「俺たちからのプレゼントじゃ」



「もーすぐ卒業だけどよ、シクヨロ頼むぜぃ」



「ありがとう。当たり前じゃないか」



俺はまた屋上を後にして部室へ向かう。


部室にいるってことは、寝てるのかなあ葵。


葵の寝顔を思い浮かべて幸せな気持ちになる。


やっとこさついた部室で俺を出迎えてくれたのは葵の寝顔ではなく、柳生とジャッカルだった。



「意外と時間がかかりましたね、幸村くん」



ふふ、と笑って柳生が立ち上がる。



「ちょっと待ちくたびれたぜ。よし、俺らからのプレゼントはこれだぜ」



「お誕生日おめでとうございます、幸村くん」



柳生がパチンと指を鳴らすと部室にわらわら人が入ってくる。


その人たちは何も言わずに俺からプレゼントを奪われて、封を切られる。


真田と柳からのプレゼントは白いタキシード。


丸井と仁王からのプレゼントは革靴とか付属品。


そして柳生とジャッカルのプレゼントはこの髪やみてくれをセットしてくれる人たち。


皆からのプレゼントによって俺はどこかの花婿みたいに変身させられた。



「ぶちょー!ハッピーバースデーっす!俺は色んなアクシデント発生によりこの役をやらしてもらうのが部長へのプレゼントってことになりました」



大方お金がなかったのだろう。


屈託なく笑う赤也に嫌味を言う気にもなれず俺はあかや赤也に腕を引かれて走り始めた。



「赤也!どこに行くの?」



「聖堂っす!」



学校内の聖堂に赤也に連れてこられる。


そして赤也は質問させる隙を与えないまま、聖堂の扉を開けた。


うちの学校の聖堂は教会とよく似た造りをしている。


バージンロードにあたるその道を赤也に背中を押され歩けば、左右の席にはテニス部メンバーたちが満面の笑みで座っていた。


神父に扮した担任の所まで行くと、担任が咳払いをする。


そして教会の中がライトアップされた。


眩しくて思わず目をつむる。


やがてライトが消え、目を開けばそこには葵がいた。


純白のドレスに身を包み、いつもは結われていない髪が綺麗に結われていてベールが少し顔を覆っている。



「ハッピーバースデー、精市。私からのプレゼントは私だよ。これからも、精市と一緒に居られるんだって確約が欲しくて。みんなに協力してもらったの」



ふわりと笑う葵が眩しいくらいに綺麗で直視できない。



「ねえ、精市。これから先の私の人生全部あなたにあげる」



「葵」



「さ、ここまでやったんだもの。お決まりのやろ?先生よろしくねー」



葵にせかされ、先生が口を開いた。



「ったく、仕方ねぇな」



これ、俺からのプレゼントなと先生が笑う。


「汝葵は、この男幸村を夫とし、良 き時も悪き時も、富める時も貧しき時 も、病める時も健やかなる時も、共に歩 み、他の者に依らず、死が二人を分かつ まで、愛を誓い、夫を想い、夫の みに添うことを、神聖なる婚姻の契約の もとに、誓いますか?」



「はい。誓います」



ふわりと笑う葵。


予行練習みたいなもんだって解ってても、凄く幸せな気分になる。



「汝幸村は、この女葵を妻とし、良 き時も悪き時も、富める時も貧しき時 も、病める時も健やかなる時も、共に歩 み、他の者に依らず、死が二人を分かつ まで、愛を誓い、妻を想い、妻の みに添うことを、神聖なる婚姻の契約の もとに、誓いますか?」



「勿論誓います」



「では誓いのキスを」



葵のベールを剥いで触れるだけのキスをする。


すると葵の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


そんな葵は世界で一番美しいと思ったし、大切な仲間たちに囲まれて大切な人にこの上ないプレゼントを貰った俺は、間違いなく世界で一番幸せだと思う。



「返品は一生受け付けないからね?」



「大丈夫。一生離さないから」



「大好きだよ、精市。生まれてきてくれて本当にありがとう!」





2012/03/05
ハッピーバースデー幸村くん!


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