短編

□相変わらず君は
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じわりじわりと滲む血。


霞み行く視界の中で、死ぬのかもしれない。


初めてそう思った。



「くそ、風魔、め……手加減しろ、ての」



パリパリと音を立てて氷があたしを包んでく。


少し離れたとこに転がったあたしの武器である薙刀、氷鏡が光を放っていた。


お前、あたしを守ろうとしてるの?


なんとも忠誠心高い武器だな、おい。


でもね、もういいよ。


生きるのにちょっと疲れた。


生きるのを諦めた刹那、なんだか身体の力が抜けた。





僕の可愛い葵、君は生きるんだよ。いいね?





葵、お前はお前らしくあれ。
それが一番だ。





やっとあの2人に会える。


そう思うと死ぬことなんて怖くともなんともなかった。


あー、あたしの人生波瀾万丈だったな。


ある日いきなり現れた腹違いの兄だと名乗る半兵衛に誘拐されて、秀吉のために働けとか言われて。


仕方なく薙刀習ったらなんか氷バリバリ出て来る技使えるようになっちゃって。


まだ佐吉だった三成や家康たちと楽しく毎日過ごして。


んでもって三成の真っ直ぐなとこに恋して。


ちゃっかり恋仲になって。


それから家康に裏切られて。


暴れる三成の手綱をなんとか刑部と握りながら、刑部の提案で三成とは別隊で東日本を目指して。


そして北条に戦しかけてこのザマな訳だ。



「みつ、なり」



三成の事を思い出した途端に意識がはっきりして来た。


あたしが今死んだら悲しむどころかあいつ怒るんだろな。


くそ、まだ死ねないじゃん。


さてどうしたものかと思っていると大きな音を立ててあたしを包もうとしている氷が砕かれた。


何だろうと身体をなんとか起き上がらせようとしたら、蹴飛ばされた。



「痛っ」



ちょっ、誰だよ。


瀕死の状態の人間に蹴り入れんなって。



「……生きてるのか」



溜め息混じりのその声は三成だった。


馬鹿三成、蹴飛ばされたからかすんごい痛いんだけど。


氷のお陰で塞がり始めてた傷が開いたんですけど。


血がまた出て来たんだけど。


そう文句を言おうとしたけど止めた。


あたしを壊れ物を扱うように抱き上げた三成の顔が泣きそうだったから。



「ごめん、三成」



「アホか貴様は。何故許可なく死のうとしている」



「ごめん、なさい」



「逝くな葵。私を置いて、逝くな」



「大丈夫、だよ。逝かないよ」



ごめん半兵衛。


どうやらそっちに逝くのはもう少し先になりそうだわ。


だって三成遺してくの、可哀想だから。



「刑部、手当てを頼む」



「やれ三成、そのように蹴りを入れたら葵が死ぬぞ」



あたしの代わりに文句言ってくれてありがとう、刑部。


……でもその不気味な笑みはやめてくれ。


死神が迎えに来たみたいだから。



「ね、三成。ちょっと……寝るわ」



「起きたら覚悟しておけ、葵」



「ん……」



説教なら元気になったらいくらでも聞くよ。


だから今は寝かせて。


ちゃんと起きるからさ。


だからそんな顔しないで。


大丈夫。


あたしは約束、破ったりしないよ。


三成を裏切ったりあたしはしないからね。



相変わらず君は、人を傷つけるのがうまくて
(でもそんな不器用で真っ直ぐな三成だから)
(あたしは好きになったんだよ)





2011/12/1
三成にアホか貴様はと言わせたかっただけのお話←
確かに恋だった様よりお題をお借りしました。

 

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