短編
□やっと、会えたね
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すぅ、と息を吸い込めば冷たい空気が肺を満たして涙が溢れそうになった。
花束をそっと地面に横たわらせ、わたしは両の手を合わせる。
修学旅行の班による自由観光を抜け出したわたしが今立っているのは六条河原。
例え何度輪廻を巡ろうとも忘れることのない、わたしの大切な人が終焉を迎えた地。
目を瞑れば今でも思い出せる彼の最期に一筋の涙が頬を伝った。
「……こんな辺鄙な所で何をしている」
聞こえた声に慌てて涙を拭い振り返れば、そこには三成が立っていた。
「うーん……お参り、かな。三成こそ、なんでここにいるの?吉継たちと観光しなくていいの?」
「構わぬ」
わたしの隣に立った三成は感慨深そうに花束を眺めた。
信じ難いことにわたしには前世の記憶がある。
ちなみにわたしの前世は聞いて驚け、女だてらに刀を振るう戦国武将でだったのだ。
まあそれは置いておくとして、高校に入ってからわたしは前世の仲間や敵の生まれ変わりたちに出会った。
彼らの中には記憶がある者もいればない者もいる。
今わたしの隣にいる三成は後者である。
「貴様が居なくなったと独眼竜共が騒いでいた」
「なにそれ。わたしちゃんと一言言ってから消えたのに。……で、三成はなんでここにいるの?」
「……貴様が居ないと落ち着かぬ。勝手に消えるな」
答えになっていない三成のその台詞に心臓がズキンと痛んだ。
覚えていないと言うのは何とも残酷だ。
わたしは前世で三成と恋仲だった。
決して甘い関係じゃなかったけど、わたしは幸せだった。
けれど戦乱の世にわたしと三成の間を無惨にも引き裂かれ、わたしはこの六条河原で三成が打ち首になるのを何も出来ず見つめることしかできなかったのだ。
「なに、それ」
ようやく絞り出した声が震えた。
「泣いているのか」
三成がわたしに問いかけた。
けれど何も返せず、泣いているわたしはひたすら俯く事しかできない。
「葵」
三成の低い声がわたしの耳を撫でる。
いつまで経っても返事をしないわたしに痺れを切らしたのか、三成がわたしの腕を掴んだ。
涙で歪んだ視界に三成が映る。
それがあの日の映像と重なって更に涙が溢れてくる。
「泣くな」
そうしてる内に三成の白い指がわたしの涙を拭った。
「遠くなる意識の中、誰かが泣いていて。私はそれを拭って抱き締めてやりたいのに、それが叶わない。そんな胸が張り裂けそうな夢を、昔から何度もみる」
「みつ、なり」
「今やっと解った。私がこうして涙を拭ってやりたいと思っていたのは葵、貴様だったのだな」
三成の口角が緩やかに小さく弧を描いてわたしを抱き締めた。
「思い、出したの……?」
「刑部が言う、前世の記憶とやらか?思い出した訳ではない」
「そっか…」
「だが貴様を、葵をいとおしく思う。それは間違いない事実だ」
「それだけで、充分だよ」
三成の背中にわたしは手を伸ばして、その温もりを確かめた。
やっと会えたね
(思い出してくれなくてもいい)
(忘れたままでいい)
(三成がわたしを愛してくれるなら、それでいいよ)
2011/11/10
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