詩ノ葉

□04
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「ナギ」

目の前から歩いてきた瑛一がナギに声をかける。

「! 瑛一」

ナギが少し小走りで瑛一に近づいた。

「今日のレコーディングは中止だ」

瑛一の言葉にナギの表情が曇る。

「何で?」

「綺羅が風邪を引いたらしくな。歌えないらしい」

少しだけ瑛一が苦笑いを浮かべた。

「はぁ!? 何してんの、綺羅」

呆れたような心配そうなナギに瑛一は安心させるように言う。

「まぁ、そんなひどいものではないようだがな。電話で話したが元気そうだったぞ」

「ならいいけど……」

ナギが少しホッとしたような顔をした。

「それで、そっちは誰だ?」

瑛一の視線がこちらへ移る。

「!」

「……別に関係なくない?」

その視線を遮るようにナギが前に立った。

「関係なくはないだろ。関係者以外は立ち入り禁止だが?」

「あ、あの。私、木ノ川うたです。えっと今日は帝くんに連れてきてもらって……」

ナギの隣に立ち、何とか説明をしようとする。

「ほぅ。お前があのノートの持ち主か」

よくわからないが納得してもらえたようだ。

「は、初めまして!」

ペコリと頭を下げた。

「どーでもいいから。ほら、行くよ」

踵を返したナギと瑛一の顔を交互に見る。

「レコーディングなくなったんだからここには用なし。綺羅がいないんじゃ午後からの撮影は中止だし」

「う、うん」

後ろを向いたまま説明を始めるナギの言葉に戸惑いながらも頷いた。

「……帰る」

振り返ることなくナギが歩き出す。

「う、うん――ええっ!?」

驚きながら慌ててその後を追いかけた。

「せっかくのオフだ。楽しめよ、ナギ」

後ろから瑛一の楽しげな声がする。

「煩いな!」

振り向きながらそう言ったナギの表情は少しだけ楽しそうだった気がした。




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