迷子の黒鼠
□居場所
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ネズミについて行くことで精一杯で回りの様子に気を配ることが出来ていなかったがネズミが歩幅を合わせてくれたことで、ここがどのような場所なのか少しわかった。
バラックで売られているのは食べ物がほとんどだ。
その周りに物乞いをしている子供やお年寄りがいた。
路地裏には目をギラギラとさせてる人間や生気すら感じられないような人間もいる。
治安が悪いのは一目瞭然だった。
不安になり、前を行くネズミのことを見る。
その視線に気がついてなのか、ネズミが振り向いた。
「……何だ? 怖くなったか?」
馬鹿にしたような声音でネズミが聞く。
「……うん……怖い」
素直に頷いた。
それを見てネズミは鋭い目つきになり言った。
「これがあんたの知りたがってたこの世界だ。まぁ、ほんの表面に触っただけだけどな」
ネズミは立ち止まり、美蕾を正面から見据える。
「どうだ。あんたはここで生きていく自信はあるか?」
ネズミが真剣そのものの顔で聞いてきた。
一瞬、下を向いた後、顔を上げてネズミを見返した。
「確かに怖いし、不安だし、馴れる気はしない……だけど今の私にはここで……貴方達の所でお世話になるしか生きていける術はないわ。だから私はここで生き残る。絶対に」
真っ直ぐな瞳でそう言うとネズミは満足そうに微笑んだ。
「合格。その意志があるんなら手助けぐらいはしてやるよ」
そう言ってネズミは右手を差し出した。
「……ありがとう」
握手を交わした後、ネズミが再び手を差し出してきた。
とても優美にゆっくりと。
「?」
不思議そうにしているとネズミは可笑しそうに笑った。
「お手をどうぞ、お姫様?」
「……」
怪訝そうにネズミの顔を見つめているとネズミは手を差し出したまま言う。
「怖いんだろ? 手でも繋いでやろうと思ったんだけど」
ネズミが馬鹿にしたように言う。
好意で言ってくれた訳ではないことはわかっていたが、素直にネズミの手を取った。
ネズミが一瞬、びっくりしたように目を見開いた。
「……本当に怖いんだもの」
ぼそりと言った言葉を聞いたネズミは目を瞑り、口許を緩ませた。
「正直者は嫌いじゃない。馬鹿だとは思うけど」
ネズミはそのまま美蕾の手を握り、歩き出した。
「少し案内してやるよ」
前を向き、ネズミが言う。
ネズミの手はとても温かかった。
細くてとても綺麗な指だが、男の子の手だからなのだろうか、美蕾の手はネズミの手にすっぽりと納まってしまう。
ネズミに手を引かれながら西ブロックを見て回った。
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