灰色days

□第10話【思い出と記憶】
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病院に着き、彼女がいる病室へ向かう。

【集中治療室】

看護師に案内され、ガラス窓の前に立たされる。

「……ことりん……」

そこには様々な管が繋がれ、眠っている彼女の姿があった。

「……っ」

グッと拳を強く握る。

「……あなた方は……」

声のした方を見ると白衣を着た初老の男性と中年の看護師が立っていた。

「彼女の……【家族】です」

ことりを見つめる蘭丸を一瞥(いちべつ)し、嶺二が答える。

「そうでしたか……」

「……あいつの容態は?」

蘭丸が振り返り、尋ねた。

「……意識はまだ戻っていません。いつ戻るかも……わからない状態です」

「……チッ」

医師の言葉を聞いた蘭丸が視線を反らす。

「……もしかして……黒崎……蘭丸くん?」

中年の女性看護師が聞き辛そうに言った。

「……まぁ……はい」

あからさまに眉をひそめた蘭丸に対し、看護師は泣きそうな笑顔になる。

「そうだったの……。ことりちゃん、蘭丸くんに逢えてたのね……」

「……は?」

首を傾げる蘭丸を見て、嶺二が看護師に尋ねた。

「あの……一体、どういうことですか? ランランに逢えてたって……」

「えっと……蘭丸くん覚えてないかしら……? 昔、この病院がここに移転する前の所でよく、ことりちゃんと遊んでくれていたでしょう?」

「……あいつと……?」

「ええ……。ことりちゃん、蘭丸くんと遊ぶようになってから見る見るうちに明るくなって……。お父様のお友達が退院なさってから蘭丸くんは来なくなってしまったけれど、ことりちゃん、『つぎに蘭くんにあうまでには歌をがんばってうまくするんだ』って言っていたのよ」

懐かしむような看護師の言葉を聞き、蘭丸が固まる。

「あいつが……あのときの……?」

ゆっくりと振り返った蘭丸の瞳がことりを捉えた。


『だいじょうぶ。すこしさみしいけど、つぎに蘭くんにあうまでに、うたをたっくさんれんしゅうする! うたで蘭くんとつながってるからへーきなの!』


笑顔でそう言ったあいつと別れた後、名前を聞いていなかったことにどれだけ後悔したことか。

しばらくしてから機会があり再び病院を訪れたがあいつはもう居なかった。

その時に抱いていた想いが【恋】だったと気がついた。

「…………ことり……」

触れられる、抱き締められる、そんな距離に居た。

あいつはおれに気がついたのにおれは気がつかなかった。

悔しい。

情けない。

そんな思いが溢れてくるのと同じにあいつへの想いも溢れ出てくる。

「くそっ……!」

歯を食い縛り、俯いた。











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