迷子の黒鼠

□住処
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夕日に染まった荒野を白髪の青年と黒髪の青年が歩いている。

夕日と言っても、もう沈みかけている。
じきに夜になり、真っ暗になるだろう。

「待ってよ! ネズミ!」

白髪の青年が黒髪の青年を追い掛ける。

「煩い。誰のせいで遅くなったと思ってるんだ」

ネズミと呼ばれた黒髪の青年は溜息まじりに皮肉を言う。

「……」

ネズミが突然立ち止まった。

「どうしたの?」

白髪の青年がネズミの視線の先を追う。

ネズミの視線の先では何かが横たわっている。

女の子のようだ。

「……! ネズミ! 人が!」

白髪の青年は慌てて駆け寄ろうとするがネズミに止められた。

「見りゃ分かる。もしかしたら害のある奴かも知れないだろ。迂闊に近づくな、紫苑」

ネズミは冷たく言い放つ。

「でも倒れてるんだよ? 助けないと……」

「ご親切に地下で……しかも俺達の家の前で、な」

ネズミは疑いに満ちた瞳で倒れている人物を見る。

「……? あれって……」

紫苑と呼ばれた白髪の青年は女の子のそばに小さな二つの目が光っているのを指差した。

「……鼠か?」

「でもハムレット達はここに…………あ!」

突然、紫苑が声を上げる。

「どうしたんだ?」

「ほら、一昨日辺りから帰って来なくなっちゃった新入りの【チイ】だよ! ね!? チイだよね?」

紫苑は光っている目に聞く。

するとその鼠は紫苑に近づいてきた。

「チィ」

近づいてきた黒い毛の鼠は紫苑の足元で止まった。

「チイだよ! ネズミ! おかえり、チイ」

黒鼠を手に乗せて喜んでいる紫苑を見てネズミは呆れた笑顔で言った。

「良かったな……」

「うん! ってあれ? どうしたの、チイ」

チイが紫苑の手から下りようとしていたので紫苑は優しく地面に置いてあげた。

「チィ!」

チイは紫苑とネズミの顔を交互に眺め、女の子の元へと走って行った。

「……俺達に何とかしろって言いたいのか……」

ネズミが深く溜息をつき、女の子に近づく。

その後を紫苑も追う。

ネズミは素早く彼女に近づくと先ず、意識のないことを確かめ、ポケットを漁り始めた。

「ちょっと! ネズミ?」

「身分を証明するものを探してる。こいつは身なりも良いからな。おそらく西ブロックの人間じゃない」

「でも怪我してるかも知れないし、女の子なんだよ?」

「治療はあんたの仕事だ。……あった」

ネズミは女の子のポケットから小さいノートのような物を取り出した。

「名前だろうな……美蕾……か」

ネズミは小さなノートをパラパラとめくる。

「ネズミ、調べ終わったのなら中へ運んでも構わないよね?」

紫苑が美蕾の腕を首にかけ、中へ運ぼうとした。

多少、よろついている。

「…………俺が運ぶ」

ネズミは何とも言えない顔で一生懸命に運ぼうとする紫苑を見てから溜息まじりにそう言った。





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