迷子の黒鼠
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「ほら、大丈夫だよ」
伸ばされた手の匂い注意深く黒鼠は嗅ぐ。
そして安全と判断したのか、ゆっくりと手に乗った。
「ふふっ。いい子ね」
微笑みながら指で黒鼠を撫でた。
「チィ……」
鼠は嬉しそうに目を細めた。
《こんなにふわふわした毛だもの……野良じゃないわ……》
無言で立ち上がり、立ち去ろうとする。
「お、おい……」
「逃がしてくる。……そうだ。コレ、河野の机に置いといて」
単調な声で声をかけてきた男子生徒に日誌を渡した。
「よろしく」
男子生徒の返答を聞く前にその場を立ち去った。
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