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□中学生日記
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「あ、やべ。宿題全然やってねえや」

特に焦り散らした様子もなく友人はポツリと呟く。

こいつが冬休みに突入してから僅か一週間で宿題を片付けてしまうような裏切り者だったら友達としての立ち位置を改めるべきところだが。


「おれもやってないけど」

控えめにそう言うと、友人は遭難した末にたどり着いた無人島にて唯一の住人を発見したぞというような輝かしい瞳で「マジで!?全然!?」と問いかけてきた。

そんな不名誉な仲間意識なんて、持たれるほうの身にも是非なってもらいたい。

「まあ、良いんじゃん?年明けてからやろーぜ」

「やろーぜ」とは、暗に「一緒に宿題片づけようぜ」というメッセージが隠されている発言なのだろうか?

一体、「勉強会」と称した「ゲーム大会」が何度開催されたことだろう。


「まあ……そのうちな」

気のない返事を返すと、友人は腑に落ちないような顔をしながらもコンビニを後にしていった。

一方の自分は、心の中で宿題を一刻も早く終わらせたい気持ちに駆られている。

(帰ったら勉強するか……)


友人のあとに続いて、というわけでは決してないが、長居する気にもなれなかったのでコンビニの重たいドアを押した。

外は既に陽の落ちる時間に迫っていて、クリスマスボケの抜けないネオン達に混じって車のヘッドライトがゆらゆらと揺れている。



――もうそろそろ今年も終わりだ。


不意にそんなことを頭の中で思い浮かべた途端、狙ったように目に飛び込んでくる「年賀状販売開始」の文字。

ここから歩いて5分としない場所に郵便局はあるのに、わざわざコンビニで年賀ハガキを買う人間なんているんだろうか。


「年賀状かあ……」


子供の頃はただ、来年は何枚くるんだろうという期待をしていたものだけど、今となってはどうだろう。

もしも流行語大賞が年始に発表されるものだったとすれば、毎年不動の大賞を入手するのは「明けましておめでとう」に違いない。



正月なんて嫌でも毎年やってくるのに。


年始は大変だ、と忙しない音をたてて騒いでいる大人達はむしろ年末年始を歓迎していない気がする。


(年賀状に宿題に……)

師走って面倒臭いな。そうだ、どうせなら、



「どうせなら世界が狂気に満ちてくれればいいのに」




そうしたら年賀状も宿題も必要ないのに、と少しだけ友人の感性に近付けたかもしれない瞬間だった。



―――The End. (2011.12.06)
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