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□中学生日記
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 眠気眼に外へ繰り出す。


今考えれば、ただ暖かそうだったからという理由で適当に買ってしまったサイズ違いのダウンも「小さい」より「大きい」ほうを選んだ自分を誉めてやりたい。

大は小を兼ねる、なんて云うしね。















必要以上に手元を覆う袖丈をかくすように捲って、コンビニのドアを開いた。

いつになったらこの手押し式のドアは都会化してくれるんだろうか。

毎回期待を込めてドアの前に立っては、自動的に開いてくれないものかと期待をしてしまう。

(コンビニが時代遅れなだけで、別にこの町自体が田舎なわけじゃないぞ!)

変な対抗心を燃やしながら暇潰しに雑誌コーナーへと足を運ぶ。

が、見覚えのある人影を見つけて、険しい山道のコーナーを勢いよく曲がるスポーツカーのように、咄嗟に踵を翻した。



――『世界が狂気に満ちてくれればいいのに』


とある日の学校にて、何だか色々難しいお年頃らしい発言を口にしたのは、まさしく目の前の雑誌コーナーで大あくびを開けながらさも退屈げに雑誌を読むクラスメイトだ。

そんな何だか色々難しいお年頃な奴と冬休み中にまで顔を合わせるような羽目になったら休んでる気になんかなれやしない。


万引きなんかしてないのに背徳感を身にまといながら暇潰しに訪れたコンビニをあとにしようとすると、ふと横切ったおじさんが見せつけるように肉まんを頬張っていた。


(せめてコンビニの外に出てから食べ始めればいいのに)

一瞬サクラなんじゃないかと疑ってしまったのは、その姿をみて腹の中で胃が唸ってしまったからだ。

店員は「してやったり」といったような胡散臭い笑顔でレジ横に置かれた棚を指している。

(ああ、そうかい。なら策略にハマってやろーじゃないですか)

財布の中を一瞥してからレジに近付いて、汚い大人の笑顔と共に綺麗な丸い形の肉まんをゲットした。



消えた180円と肉まんに罪はない。

でも、この先コンビニの肉まんを食べたくなったときは多分、隣町までチャリを走らせると思う。


そんなことを考えながら肉まんにかぶりついた。若干不躾な行為かもしれないと思ったけれど、なんてことはない。

誰しも悪気もなしに所構わず、人ん家の玄関を開けて入ってくることが日常的なこんな場所で作法なんてものが通用するかどうかも怪しい。

一口で中身の具が顔を出したのは、少しばかりのやるせなさが表にでた証拠なのかもしれない。


肉まんを購入してすっかり満足しきったので、コンビニをあとにしようとすると、払拭できなかった背徳感のゲンインが肩を叩いた。

「よう。美味そうなもん食ってんじゃん。ちょっとくれよ」


入り口付近にて。

声をかけてきたのは「お前のものはオレのもの」的な思考を持ったガキ大将などではなく、それより精神的に少しだけ成長したクラスメイトの我が友人だった。


「……やだよ。お前も買えばいいだろ」

相手がガキ大将だったら迷わずくれてやってたかも知れないけど。

「なんだよ、ケチだな」


友人は厚着こそしているものの、恐らく持ち上げてひっくり返してみても彼の懐から財布なんて落ちてきやしないだろう。つまり立ち読み目当てだ。

「お前も暇潰し?冬休みって案外暇だよな」
「そう思って担任が宿題増やしてくれたんじゃない?」

冗談まじりにそう答えたころには、既に手元にも口内にも肉まんの姿は残っていなかった。
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