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□かみすん
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下駄箱から引き抜いた運動靴を見つめて「随分と汚れてしまったな」と、彼女は独りごちた。
運動靴だけではない。
ハイソックスだってどんどんヨレてきてしまって、今ではまるでルーズソックスの類のようだ。スカートも何度かホックを留める位置が変わったし、スクールバッグは元の色を思い出せないくらいに色褪せている。
高校生という彼女を形成してきたそれらは、ありふれているようでいて唯一無二の存在だ。
そう思うのは、高校生活最後の日が明日に迫っている今だからこそなのかもしれない。
彼女は「ありがとう」と蚊がなくような声で呟いた。
それだけで喉が詰まるような感覚に陥った。
特別なことなど何もない。
何気なく通り過ぎてきてしまったのかもしれない。
けれど、その瞬間だけはすっと切り離されたように彼女だけの世界で満ち溢れていた。