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□文化部の優雅な日常
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時は平成、舞台は日本の某所。

そこに存在する私立高嶺(たかみね)高等学校は伝統と風格のある由緒正しい高校。…であったのは随分昔の話である。

今では自由性が高い地域密着型の学校へと変貌を遂げていた。


そしてこれは、そんな高校に存在する「文化部」で繰り広げられる優雅な日常をまことしなやかに綴った物語である。


「今日も暇ですなあ」
「そうですなあ」

溜め息混じりの会話が部室内に響き渡る。

「それにしても眠い……」

退屈そうに椅子を揺らすのは文化部所属、二年の竹永美羽(たけなが みう)と酒井恵里菜(さかい えりな)。

この二人は放課後いつも、一番乗りで部室へと向かいこのようにだらけている。

言動から見てとれるように、彼女達は決して部活に熱心ではない。

なのに何故一番乗りでこの部室へ顔を出しているのかというと、それは季節が大きく関係している。


「今日も暑いねー」と美羽。

「じゃあ、つけますか〜」そう言う恵里菜は億劫そうに椅子から腰を上げて入り口の横まで急いだ。

そして目の前に置かれているリモコンに手を伸ばして、慣れた手つきで操作していく。

美羽はその様子を、待ち遠しいといった表情で見つめていた。


そして恵里菜のリモコン操作が終了すると上方から静かな機械音が聞こえてきて、暫くするとヒンヤリとした人工的な冷風が美羽と恵里菜の元に届く。

7月下旬の今はクーラーの風が心地よい。

このクーラーは部室であるパソコンルームにしか設置されておらず、美羽と恵里菜は夏になると一番乗りで部室にやってきているのだ。

「ああ〜至福の時だわ」
「クーラー浴びるために来てるようなもんだよね、うちら」


すると急に疾風の如く部室のドアが開いて、冗談混じりでそんな会話をしていた二人の表情は一気に固まる。


「それは聞き捨てならないわね、後輩諸君!」


現れたのは三年、宮代晶子(みやしろ しょうこ)。文化部の副部長を担っている。


「あーあー、またこんなにクーラーの設定温度下げて……」

私は冷え性なの。そう言って晶子はクーラーの温度を引き上げた。

「す、すみません副部長」
「別に謝らなくてもいいけど……。それより、こんな時間になっても未だに部室内が閑散としているこの状況の方が問題だわ」

現在部室内には晶子、美羽、恵里菜の三名しかいない。

「一年は何やってるのかしら……」
「あれっ?そういえば部長はどうしたんですか?」
「そういえば……いつも一緒ですよね」

その言葉に、晶子は一瞬キョトンとした顔をみせてから思い出したように「ああ、」と頷いた。

「玲は今日、生徒会の仕事が入ってるから遅くなるそうよ」

玲とは文化部部長、三之丞玲(さんのじょう れい)のことである。
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