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□反対色に憧れた
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その後、私の元へ戻ってきた後輩と共にバスを降りて歩き始めた私はぼんやりと考えていた。
とどのつまり、私も単なる傍観者でしかなかったのだ。
男子学生に対する嫌悪感に自身の正義を確信し、それに満足していただけだった。
ふと、横を見る。
私よりもずっと非行少女に見える後輩は、私よりもずっと正しい正義を貫いていた。
私は彼女が羨ましい、と思う。
普段から真面目にしか生きていけない自分は、いくら善を働いても「ああ、あの子だから」と勝手に納得されてしまう。
別段悪いことではないのだけれど、そんなときに限って世の不条理さを痛感してしまうのである。
「センパイどうしたんですか? さっきからずっと黙ってるじゃないですか」
「え? あ、いや……なんでもない」
なんでもない、という訳でもなかったが、今の自分の感情を後輩にさらけ出すことは、自分の卑屈な面を後輩にさらけ出すということなのである。
後輩は腑に落ちぬ顔をしながらも、私の腕を引っ張って「さあ、行きますよ」と声をあげた。
きっと誰よりも現実に溺れていたのは、私自身だったのだ。
勉強さえしていれば“勉強のできる自分”に満足できる。
勉強さえできれば“勉強のできる自分”を褒め称えてもらえる。
私はずっと、現実という名の空想に溺れていた。
そこから救い出してくれたのは、カワイイ後輩――だとは思いたくないが。
もう、勉強を心の拠り所にするのはやめよう。
このままでは、この先、自分の為に生きていけなくなってしまう。
そんな気がする。
両手にショップバッグを抱えて私の前を歩く後輩が、不意に振りかえった。
「センパイ、自分のやりたいことやって生きて生きましょうよ」
「……じゃあ、勉強」
これからは、自分の為に。
「ええーっ、やっぱりセンパイって、絶滅危惧種!」
―――The End. (2013.03.04)