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『同情はきらいですか?』
そう、その女(ひと)は言った。
野宿とはいえ月明かりが眩しいほどで、焚火を前に身を寄せるといい香りがした。
『私は好きです。』
そう言って俯いた項(うなじ)を綺麗だと思った。
好きという言葉に身体が揺れた。自分に言ったわけじゃない。それなのに、反応してしまった自分が恥ずかしい。
『だって、あたたかいでしょう?』
そうだろうか…。
見下げて言われる『可哀想』という言葉は、孤児院で何回も聞いた。
あれは決して、暖かくはなかった。
『その時だけでも、相手は私を見ていてくれる…』
そうか。
マッチ売りの少女は、それすらも無く、雪の中に倒れていったんだ…。
途端、寒さに身体が震え、彼女を抱き締めた。
『八戒さ…ん。』
この女(ひと)は、同情すら暖かいと感じる、そんな日々を送ってきたのか…
『これからは、僕が貴女を見ています。そして僕が、貴女を暖めます。』
大きな瞳が僕を見上げる。
それはとても澄んでいて、酷く傷ついていた。
『……ありがとう』
ぽつりと漏らされた言葉は、不安にゆれていて…。
同じような過去を持つ彼女は、今、静かにその傷に耐えているのだろう。
『信じて。だから、貴女も僕を見ていてくださいね。』
『はい…』と告げられた言葉と共に、背中に回された白い腕の意味に、僕は微笑まずにはいられなかった。
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