小説(謙也×光)

□驚かしたろ
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謙也はいま部室に置かれた炬燵の中に居る。
この炬燵はつい先日、氷帝学園のテニス部監督、榊から四天宝寺のテニス部宛てに届いたものだ。

この炬燵の中から光を驚かすことをふと思い付いたのだ。

(炬燵ん中から急に俺が出て来よったら驚くやろなあ)

光の反応を想像して、楽しそうに顔だけ笑う。
(思い立ったが吉日や)
ふいに足音がした。

(光か?)
部室の扉が閉じる音がした後、誰かが炬燵に入ってきた。

我らが四天宝寺中テニス部のジャージを履いている。
この脚は光だ。

心の中でガッツポーズをすると、早速謙也は待っていたとばかりに腹に頭突きをして光を炬燵から押し出す。

「わ、ちょ…謙也さん!?」
驚いた顔をして目を見開く。

「ぷはっ…はー…熱中症で死ぬ思たわ」
「…あほですか」
「なっ!失礼やぞ!あほちゃうわ!」
「こないなとこ潜っとる時点で相当あほっすわ」
謙也に頭突きをされた拍子に落とした本を拾いながら言う。

「一人でなにしてはるんですか、謙也さん」
「…あ、せや。わーっ!…どや!驚いたか、光!」
「…謙也さんはほんまもんのあほっすわ」

溜め息を洩らす。
(あれ…?)
失敗だったのか。
(なんやねん…もうちっとなんかしらあるやろあほんだら…)
少し不安になった。

そのとき、光が続きを口にした。

「…せやけど、あんたらしいっすわ」

光は呆れた顔で笑う。

「あんたのそういうとこ、嫌いやないで」

少しはにかんで笑う。

それが、あまりに可愛くて。

「…なんやねん」
「…え、ああ、いや、なんでもあらへんよ」

思わず目を背ける。
(アカン…不意打ちや…笑てまう…)

嬉しい。
すごく、嬉しかった。

「…きもいっすわ」
すぐにまたいつもの表情に戻って言う。

そんな光もすごく可愛くて、愛しく思えた。

「…それより、俺いまあんたのせいでめっちゃ寒いねん」

光が小さく言う。

「え、ああ、スマンなあ」
「せやから…」
「なんや?」

「…っ!せやから!早よ俺のこと暖めえ言うとるんや!わかれや!」


顔を真っ赤にした光の言葉の意図を理解すると、謙也も夕焼けなんかよりよっぽど赤く綺麗に染まっていた。
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