小説(大石×菊丸)

□公園(大菊(大石viewpoint))
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寒い、冬の日。

部活の終わった二人は公園に来ていた。

「ふへー、寒い!」
公園のブランコに座りながら、ここへ来る途中に買った肉まんをせかせかと頬張る。

「ここの肉まんは美味いよな」
「だよな!」
隣のブランコに座る大石に英二は満面の笑みで賛同する。

「そんなに急いで食べるとつかえるぞ」
「んー?はいほーふはって!」
「大丈夫じゃないだろ。口に物を入れたまま喋らない。あ、口に付いてる」
呆れ顔の大石は小さな溜め息を漏らすと、ハンカチで英二の口元を拭ってやった。
「むー、大丈夫だって」
膨れた顔で英二は言うが、説得力が無いなと苦笑されてしまった。

「食べ終わった…けど、まだ寒い」
不満そうに言う。
「ちゃんと暖かい格好して来ないから…」
「だって朝は寒くなかったから」
英二は言い終えたと同時に小さなくしゃみをした。

「しょうがないな。英二、こっち」
大石が巻いていたマフラーを解いて、手招きする。
「寒いんだろ?」
「え、あ、うん」
「じゃあ、ほら」
冷えた手で、大石が自分と英二に一つのマフラーを巻く。

「これなら多少はマシだろ?」
白い息を吐きながら大石は微笑む。
「うん…。サンキュ、大石……」
その気遣いが嬉しくて、英二は照れたようにお礼を言った。

大石のマフラーは少し長めだったようで、二人を包んで丁度良い長さだった。
動くと時々、二人の頬が触れる。
その度に英二はなぜだか恥ずかしかった。
大石と一緒にいることはなにもおかしくないのに。
制服を着ている身体ならまだしも、冷たい手や頬が触れると恥ずかしくて体温が上がる。

「あっ…、ごめん大石」
「あ、ああ、こちらこそ、悪いな」
「い、いやいや」
さっきから触れる度にずっとこんな調子である。

暫しの沈黙。
恥ずかしさからか、英二はなにを話したらいいかわからなくなっていた。
そのとき、唐突に隣から声がした。

「なあ」
沈黙を破ったのは大石だった。
大石は続ける。
「明日の練習試合…」
「う、うん…?」
困惑したまま、相槌を打つ。
明日の練習試合が、なんだろうか。
大石は少し神妙そうな顔をしていた。
鼓動が早くなる。
英二は言葉を待つ。
十数秒置いて、大石は言った。
「明日の練習試合…、絶対、勝とうな」
「……え?あ、ああ!もちろん!」
なにかと思った。
「当然だろ!」

別の言葉を待っていた、わけではない。
けれど、少しがっかりした。
なぜがっかりしたのかは英二にもわからない。
「俺達、黄金ペアの力見せてやろうぜ!」
そう言うと、大石は明るい顔をした。
「あ、ああ!そうだな!」
安心したように笑う。

いつもの大石だ、と思った。
「三年生が引退して…、これからは俺達が部を引っ張って行かなきゃいけない」
「うん」
「だから、練習試合だろうと、全力で勝とうな。頼んだぞ!相棒!」
大石は嬉しそうに笑った。
「もち!まっかせといてよ!勝とうぜ!相棒!」
つられて英二も笑う。
きっと、大石は三年の先輩がいなくなって、不安だったのだな、と英二は思った。
副部長という立場は大石を不安にさせたのだと、英二は気付いた。

すぐ隣で笑う大石の顔は英二を安心させる。
そして、その英二の笑顔は大石も安心させた。

「…さて、そろそろ帰るか」
「ん、そだね」
そう返事をすると、英二はマフラーから抜け出ようとした。
「あ、英二」
「なに?」
「マフラー、貸してやる」
手を止めたまま、英二は思わず聞き返した。

「だから、貸してやるって。英二が風邪引いたら大変だからな」
「……それじゃ大石が風邪引いちゃうじゃん…」
顔を赤らめたまま、恥ずかしそうに俯く。
「俺は心配無いよ」
「根拠は」
「無いけど」
苦笑しながら言う。
嬉しい。嬉しすぎて、どうにかなってしまいそう。

「…サンキュー、大石」
「ああ、どういたしまして。英二」
名前を呼ばれるのもなぜだか恥ずかしい。
大石の匂いがするマフラーは英二を優しく暖かく包む。

寒かったはずが、いつの間にか身体だけでなく、心まで暖まっていた。

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