小説(大石×菊丸)

□遊園地無料招待券(菊丸side)
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菊丸side



学校から戻ってきた英二は、自室のベッド付近に学校鞄を投げ捨て、その場に座り込む。

「これ、どうしよう……」

英二の手には、ほんの数分前に姉から渡された、遊園地の無料招待券が二枚握られていた。

「急にこんなもん渡されてもなあ」
手近にあった、熊の大五郎を抱きしめながら呟いた。

今週末までの無料招待券。
姉が友人と行く予定だったそうなのだが、友人に急な用事が入ってしまい、断られてしまったそう。

姉には、無駄にするなと渡されたものの、使い道が見当たらない。
使い道など、遊園地に無料で入ること以外のなにでもないのだが。

「……大石と、行ける、かな……」

もしも、誰かと遊園地に行くなら、英二は絶対に大石と行きたかった。
何故かなんて愚問だ。

「俺……大石のこと、好きなのかな……」

最近、少しだけ、ほんの少しだけ、そんなことを思う。

この気持ちは本当に、友人としての好きなのか。

大石と一緒にいることは当たり前のことなのに、なんだか最近、大石といると動悸が早くなる。

二人きりのときは、動悸が更に早くなるし、肌と肌が直に触れたときは、苦しいとさえ思う。

「苦しいけど……好き、なんだよね」

英二は、大石が好き。
もう、自覚している。

―じゃあ、大石は……?

大石はどうなんだろうか。
俺のことをどう思っているのだろうか。
信じている。だけど、少しの不安が英二の口数を減らす。

「……どうしよ」

不安になる。
もしかしたら、片想いかもしれない。
片想いが悪いわけじゃないけど、一方通行かもしれないと思うと、なんだか寂しくもなる。

けれど、大石が好き。
大石と一緒にいたい。

「大石と、楽しみたい」
無意識に呟いた。

大石が好きだ。
なににも代えられないくらい、大切な人。

「……よっし!」

一呼吸置く。
そして、大五郎に顔を埋めながら強く叫んだ。

「大石の奴を誘おう!」

小さな決心だった。


英二は招待券を机に置くと、そのまま大五郎と共にベッドへ飛び込む。

小さな不安と大きな期待の中、英二は頑張ろうと思った。
ただ漠然と、頑張ろうと思った。

心地好さそうな寝息を立てながら、部活動で疲れた身体を休める。
眠る英二は隣に大五郎を寝かせ、抱き付いたまま眠っていた。


世界一幸せそうな寝顔で眠っていた。
 

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