永久なる絆を紡ぎだせ
□異邦の影を探しだせ 壱
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五月末の吉日。
安倍吉昌の末子、安倍昌浩がようやく元服の儀を行うことになった。
大概は十一歳になったらすぐに行うのだが、昌浩の元服がここまで遅れたのには理由があった。
それはさて置き、やっと大人の世界に足を踏み入れることができると、昌浩は内心とても喜んでいた。
「いやはや、なんていうの?こう、すっごく成績の悪い弟子がなんとか独り立ちする感じ?」
「・・・なんだよそのたとえ」
物の怪の随分なたとえに昌浩は眉をしかめる。
しばらく言い合いをしていたが、前方に見えた人影に、昌浩は声をかけた。
「永久!」
「あぁ。昌浩ともっくん」
永久と呼ばれた少年は、昌浩に気づき後ろを振り返る。
永久は、ついこの間から安倍邸で暮らすようになったのだ。
帰る場所のない永久を祖父の晴明が家族として迎え入れた。
だから前の名を捨て、今は安倍の姓を名乗っている。
「さすがに、少し緊張するな」
永久は緊張をほぐすように、軽く息を吐く。
今から昌浩と永久、それと父である吉昌とともに左大臣である藤原道長邸を訪れるのだ。
道長が、最も信頼している陰陽師安倍晴明の末孫が元服すると聞き、出仕前に一度会いたいと言い出したらしい。
そこで、ついでに永久のことも紹介しようと吉昌が事情を説明したところ、ぜひ連れて来てくれと言われたらしく同伴することになった。
「俺も・・・」
「お前の場合、言葉使いが一番心配だな」
「うっ・・・」
物の怪に痛いところを突かれた昌浩は項垂れる。
「そう言ってやるな。言葉使いなんて、使っていればそのうち身につく」
「そのうちねえ・・・」
苦笑しながら昌浩の肩に手を置く永久に、物の怪は意味深な視線を向ける。
「仕度はできたか、ふたりとも」
そこに吉昌がやってきた。
「「はい」」
そうして、三人と一匹は徒歩で東三条殿に向かった。