Novel

□第2幕*5部
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「ま、そいつらが今情報を分析してくれてるからよ、俺はその情報を受信しにいってくるぜ」
「何処で?」
「キャディラックに機材が積んである。んじゃ後はお若いモンに任せますかね」
 ひらひらと背後に手を振り、あのバカップルたちをどうしようかと呟きながらコンラッドは歩き出す。後ろでフリードリヒが立ち上がったのも気配で感じつつ、それでも振り返らない。それよりも今まさに自分が出ようとした扉が古めかしい音を立てて開いた事項が優先だったからだ。
「おや、どうしましたコンラッド?」
「おー、いちゃつきは終わったかよクレミー」
 相変わらず仏頂面の剣士を引き連れてきた黒髪の美貌に、ニヤリと笑いかける。肩を竦めつつ微苦笑のようなものを漏らしたクレメントは手を肩まで上げて「全然」と示した。そして立ち上がって礼をしているフリードリヒに視線を移し、コツコツと規則的な足音を立てながら近づいた。
「私、出来ればお風呂をお借りしたいのですが。昨晩入れなかったのであまり良い気分ではないんです」
「ああ、それならばこちらですよクレメントさん」
 初対面の人物の我侭にもフリードリヒはニコリと愛想の良い笑みを浮かべて、奥へ案内した。それをあまり思わしくない気持ちで眺めるアグライアだったが、ふいと視線を逸らしソファに残留する。今の今までコンラッドが座っていた場所に、ガートルードは移動し座って傘を傍らに置き、目を閉じる。コンラッドはその様子を見て、口元を不適に歪めながら外へ出た。
 戦いが始まる―――それを、誰もが直感で感じていた。


[ご主人様、用意が出来ました]
「おー、十分ジャスト」
[ご主人様のご要望とあれば。さて……]
 運転席にゆったりと腰をかけていたコンラッドは、懐中時計を見ながらクスクスと笑んだ。先ほどまでのアリスに対する態度より幾分か和らいでいる。先ほどのメイド服とは違い黒スーツに身を纏わせたアリスは、じっとコンラッドの瞳を見つめて、情報の提供を開始しようと思ったがふと思い出したように付け加える。
[それと、ミスター・エヴァンス―――ジェシー・エヴァンスから伝言を承っておりますが]
「……削除してくれ、出来れば」
 その名前を聞いて一気に疲労を感じたコンラッドの出来れば、という言葉に力が籠った。だがそれに対し髪の色と同じ色をした瞳を伏せて、どこか勝ち誇ったようにアリスは首を振り言葉を告げる。
[駄目です。ご主人様がもし削除なされた場合、私の中の強制的に書き換えられたプログラムが発動してしまいます]
「何だ、それは……聞かなくともわかる気がするんだが」
[キャディラック制御装置強制破壊プログラムですわ]
「……読み上げてくれ」
 頭の中に浮かんできたブロンドの髪の美男をすっ飛ばして、コンラッドは殆ど棒読みとも取れるような指令を下した。
[『俺の信頼なるクレーバー君へ。俺とアリスで頑張って調べてやったから、ちゃんと頑張るんだぞ。泣きたくなったら戻ってこい。歓迎してあげるから。それとクレメントさんに今度酒盛りしましょうと伝えて下さい、よろぴく!』……だそうですが]
「俺のラストネームはフレーバーだっ! いい加減覚えろあの変態教師ィっ!」
 大きな手によって作られた拳が、行き場のない怒りをその中に溜めこんでブオンと音を立て振り回される。もしこれでシニョリーナに乗っていなければ、近くにある物質を破壊していたところだろう。それほどまでにコンラッドは我をも忘れ、あのクソ野郎だの玉無し野郎だのと喚いていた。あまり女子の前で叫ぶ台詞ではないことも確かだ。
 暫くしてようやくおさまったのか、肩で息をしているコンラッドは指を軟体動物のように動かし、かつての同期生に愚痴を零す。
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