Novel

□第2幕*2部
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 もう一人はアイネズだ。フリードリヒと同じ時期に出会った彼女は昔からあんなテンションだった。自分がどんなに一人でいたくても、辛いときでも彼女はいつでもあのテンションで、自然と自分の中に溶け込んでしまっていた。普通なら嫌がられても仕方ない、むしろ当然といえるような行動でも、彼女がすればそれはごく自然のことと処理される。それは何故か、自分でも不思議で仕方ないのだが、これはきっと彼女があまりにも穢れない純粋な子だからだと推測している。
 アークエット家は代々このロンドン警察の重役を担っている者たちの一人を必ず配属させている。故にアイネズの父親は現在進行形で警視として活躍していて、アイネズもそんな父の後を継ぐために警察官となっているのだ。しかし自分の異名を誇りに思っているアグライアとは違い、大学生の頃アイネズはしきりに警察官になるのを嫌がっていた。何故かと理由を問えば、機械人間と対立できるほどの力を自分は持っていない―――相変わらずおちゃらけていた姿の中に真剣さを含ませて、そう答えていた。だが何が彼女を変えたのか、卒業後にもう一度同じ場所で過ごせることになろうとは……人生とは多々不思議なものである。
 だが確実にいえるのは、この二人が自分の人生を支えて変えてくれたということ。
「……」
 そう、三人揃えばもう恐くなんかない。機械人間だって敵に回しても、負けるはずが無い―――言葉には出さずともそう強く思っているアグライアは、拘留場に向け足を進めた。
 あんな狂信者共に負けてたまるものか……
「……お願いがあります……」
 ぐっと拳を握り締めたアグライアの耳を叩いたのは、今にも静かに語りだそうとしている大馬鹿者(グレートスチュピッド)の声だった。もうあと少しで拘留場である。気付かれないようちらりとそちらを見てみれば、簡単な椅子に腰掛けている大馬鹿者(グレートスチュピッド)を見上げる形で他の囚人達が屯っている。何をしているのだろうか?
(……まさか)
 お願いがあります―――脱走の手引きを頼もうとしているんではなかろうか、あの男は。死刑宣告人(エクセキューショナー)≠フ名前を聞き驚いたに違いない。全員で逃げることを保障する代わりに、強力な戦闘力を持つ自分についてきてもらおうとしているんだ。
「貴方達の―――」
「今更脱走の手引き願い? 自ら捕まっておいて、根性の無い人ね」
 男は何かを言い始めようとしたようだが、それを遮ってアグライアは冷たい声を投げかけた。その声に弾かれるように自分に視線を合わせてきた他の囚人達に続いて、男―――クレメント・ルソーと名乗った強硬派はゆったりとこちらに顔を向ける。
「おや、おはようございます(グーテン・モルゲン)、レディ・アグライア。昨夜は良く眠れましたか?」
「おかげさまで。そちらこそ良い朝を迎えられたかしら、強硬派?」
 美しすぎる容貌に完璧な笑みを浮かべたクレメントに、死刑宣告人(エクセキューショナー)≠ヘ皮肉と棘を多く混ぜた言葉を返した。それに対してクレメントは何も言わず笑みを崩さないままだったが、憤慨したのはその階下にいる男達だった。
「良い朝! 何処がだ!」
「俺達が何をしたって言うんだよ!」
「早くこっから出せ!」
「……黙りなさい、強硬派」
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