Novel

□第1幕*3部
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「……解せねぇな、そんな理由で……」
 不思議なことばかりをほざいてくれたおかげか、恐怖が少し薄れた頭が希望を見出し始めていた女の隣で、金髪が低く呻いた。サーベルを持つ手は未だ微かに震えていたが、その目はもう怯えてはいなかった。所詮ブタが我ら機械人間に勝てるはずもなかろう―――そんな思考がひしひしと気配となって伝わってくる。メインルーチンが勝算を吐き出したのだろうか。
「我らが……我らが機械人間が負けてたまるものか!」
「駄目だ! ま、待てっ!」
 立場が逆転した。先程金髪に取り押さえられていた女が、今度は逆に男に向かって走り出した金髪を押さえようとしている。だが機械人間といえど男女に違いは存在する―――金髪は女の手をすり抜け、男の脳天にサーベルを振り下ろした。
 戦いに情熱を燃やすタイプはよくいる。また自らの誇りをかけ進んで未知なる戦いに挑むものも。この金髪は、まさにそんな男だったということを、女は失念していた―――同時に、検索用片眼鏡が探索を終了する。
「―――何っ!?」
「……抵抗、なさいますか……」
 結果をはじき出した検索用眼鏡越しに、女はその光景を見て、文字通り開いた口が塞がらなかった。
 同じように驚いている当事者の金髪はあれでも少しは名の通った強硬派で、剣の腕もそこそこである。また何より彼は主に上腕部の力を極限まで強く改造していて、それから繰り出される一撃は同じ機械人間でも判断できるかどうかのスピードに、戦車さえ真っ二つにされてしまう程の威力だ。なのにあんなか細い身体が、渾身の一撃を片手で防いでいるとはどういうことか!?
「非常に残念です……」
 また、両翼が白色に光ったと思われた次の瞬間後も、理解しがたいことだった。
「ぅ、ぁあっ、ぁアアっ!」
「……!?」
 パキパキ、と薄い何かが割れる音と、金髪の甲高い悲鳴を聴覚センサーが拾ったときには、サーベルと金髪の腕はその場に存在してはいなかった―――まるで彫刻が崩れ去ったかのように、消えた。
 機械人間とはいえ、さほど敏感ではないが、伝達コードを覆うようにして皮下センサーがある。それが途切れたり、傷ついたりすれば、気にするにも値しない程の小さな痛みが存在すると聞いたことがある。だが今金髪の両肩の中の伝達コードは、何故か先端が凍って剥き出しになっていた。人間よりは痛みを感じないとは推測できるが、それなりの痛みに苛まれているのだろう。現に地面に横たわって悶える金髪は女の目の前で、今まで聞いたことも無いような悲鳴を上げている―――だがその事実にいまいち確信を持てないのは今まで修理以外、自分達が傷つくような事態が、初起動後なかったからであった。
「……痛いですか?」
 男は自分でやったにもかかわらず、それすらも哀れむような声で話しかけた。何故か薄く白いものがこびりつく細い指をゆっくりとした動作で下ろすと、揺れ動く紫紺の瞳で金髪を見つめる。
「ですがそれぐらいなら、修理すれば何とかなるでしょう。幸運ですね、ミスタ・サーベルマン……さぁ、投降なさいますか?」
「……っぐ、き……さま……っ!」
「あ、あ……っ!」
 その様子に女が、ついにぺたんと尻餅をついた。否、正確にいえばやっと見ることの出来た、先程はじき出された探索結果にだ。
「だ、だって……え、ヌル……アハ―――!?」
 信じられない、まさかこの男は―――
 そんな女の疑問は、深い愛をすり抜け恐怖すらも彷彿とさせる柔らかい笑みに、制される。
「投降なさい、お二方……貴方達はもう、私の手からは逃げることは不可能です。すでに私の手の上で踊っているのですよ……」
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