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□好きとタイプ
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先に言っておこう、この乾貞治の好きな女性のタイプは落ち着いてる人、できれば年上だとなおいい。
断じて今目の前で盛大にこけて倒れている後輩などではないということだ。
「……はあ、何をしてるんだお前は…」
「ふぇっ…乾せんぱぁい」
呆れたように泣きべそをかく彼女にため息をついて立たせてやった。
手にはタオルの入ったカゴが握られている。
わかりきった予想に最早呆れるしかない。
「タオルを洗いに行こうとして小石に躓いて転んだ確率100%だな」
「ううっ…分かってるなら言わないで下さいーっ!!」
「…何でそんなにそそっかしいんだ…もう少し落ち着けって海堂にも言われてただろう?」
「うわーんっ!!すいませんー!!」
目の前でわたわたと慌て出す彼女に困ったように首を竦めれば周りでその様子を見ていたテニス部も苦笑を漏らしている。
彼女がテニス部マネージャーになってから今まで転んだ回数は74回、人や物にぶつかること81回、手塚相手にやらかして校庭を走らされたこと2回、同級生の桃城と海堂に助けられること数しれず。
俺でさえこんなに落ち着きがない人物を見たのは初めてだ。
「タオルが重いなら半分ずつ持って行くといい、あとキョロキョロしないで足元を見とけば躓く確率も少なくなる」
「ううっ…すいません…」
盛大に落ち込む彼女の頭を撫でれば恐る恐る俺を見上げた。
涙目で彼女に見つめられれば酷く構いたくなる。
「……気が気じゃないから何かやらかす時は俺の前だけにしてくれ」
「えーっと…はい…?」
キョトンとしながらも頷いた彼女に笑ってカゴを持ってやれば、また慌てたように落ち着きなく俺の前に来る。
何だかそれが面白くて小さく笑ってしまったが彼女は気付いていない。
彼女の反応は毎回とても面白いデータがとれる。
「あわわわっ乾先輩大丈夫です自分で持って行けますからーっ!!」
「どうせまた転ぶだろう、俺が持って行くから洗濯の準備をしに行くといい」
「ううっ分かりました…行ってきます!!」
「あ、そんな走ったらまた…」
「へぶっ!!」
「あーあ…」
100m程走ったところでまた盛大に転んだ彼女に大きなため息が出た。
遠くで彼女が転んだのに気付いた桃城と海堂が慌ててこちらに走ってくるのが見える。
「ふぇっ…乾せんぱいぃ…」
また涙目でこちらを向いてくる彼女に俺も困ったように笑ってまた先程と同じように立たせてやれば申し訳なさそうに笑う彼女がとても可愛く見えた。
俺の好きな女性のタイプは落ち着いた大人の女性だ。
断じて目の前で申し訳なさそうに笑っている落ち着いた人には程遠い彼女などではない。
ただ一つだけ言えることは好きなタイプと好きな人は必ずしも同じであるとは限らないということである。
好きとタイプ
(タイプではないけれど君が好き)
20111027 鈴宮湊さま提出