浮気男と女王様

□番犬…全6P
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 ――面倒臭ぇ、とも言ってられないんだろうな……。

「分かりました、今から確認して俺一人でどうにか為るなら片付けときます。無理そうでしたら明日にでも役員集めて設置担当と会場の修正しときますね」

 教えて下さって有り難うございます。と感謝と礼を告げ、出した書類とパソコンの電源を落とし荷物を手に取り体育館に向かう俺と同じ方向に歩き出す波瀬先輩。

「波瀬先輩?」

「人手はあった方が良いだろ?それに高梨に言ったから後は任せた。なんて出来ないからね」

 態々面倒な事に首を突っ込むとは奇特な人だ俺なら教えて後は任せた。にするけどな。

 これだけの責任感があるからこそ、生徒会長や寮長と言う煩わしいだけの役職にも就いて居られるんだろう……絶対俺はお断わりだ。

 作業が捗るに越した事も無い訳で俺は波瀬先輩の申し出にお礼を告げ他愛無い会話を交わしながら体育館へと向かう

 暫しの沈黙の後波瀬先輩が声を抑えながら問い掛ける。

「高梨、そのあの話し考え直しては貰えないかな?」

「波瀬先輩……すいません。先輩として波瀬先輩は尊敬していますが恋人としては考えられないんです」

 波瀬先輩の様な素敵な人に好意を持って頂いた事には感謝してますが無理なんです。と思わせる言葉と眉を下げ申し訳ない様に謝罪する。

 そういった表情と態度を見せればそれ以上この話題に食い下がらない、食い下がれない。

 その為の言葉と表情。

 入学してから新たに開拓した儚い演技。

 力技依り体力を必要とせずこちらの方が楽だと悟った俺は告白してきた相手にこうして対処していた。

 そのお陰か予想していた襲われる様な事も無く、約1年と言う平穏な期間を過ごし俺の力を知るのは顔合わせ初日に軽く叩きのめした藤本だけ。

 だから誰も知らなかった、俺が守られるばかりの人間では無く武闘派な人間だと言う事を……。




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