浮気男と女王様

□軋み…全1P
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 扉の前で逸る心臓を抑え立ち尽くす。
 今すぐ駆け出したい思いとは裏腹に足はその場に縫い止められた様に動かす事が出来ず、只々薄い作りの扉の奥から聞こえる喘ぎ声を聞き続けていた。

 せめて寝室迄行ってくれてれば此処まで声は聞かずに済んだのに、と性急に事を始めた中の2人を疎ましく思う。

「ぁん!晴海[ハルミ]せ、んぱいぃ激しい!
 イイ!!もっと、奥にきてぇ、めちゃめちゃにして」

 ガタンと扉が中の律動に合わせ揺れるのを見てビクリと躰が震えた。出端亀をしている様な悪い気分に為って来るのは何故なんだろう……確かにナニをしているのかを分かりながら此処で立って居ればそうとも言え無くも無い。


 だが、俺だって他人の情事を耳にしたいわけじゃない、寧ろ聞きたくない。


 自分の付き合ってる男と男の最中など聞きたいわけが無い。

 世間にはそういった行為を好む人も居るらしいが残念ながら俺はそんな性癖は持ち合わせてないのだ……。

 これを楽しんで耳に出来るならあっても良かったななんて思う。
 そうしたらこんなに死にそうなぐらい胸が痛む事も無くなるんだろうし、この声を記憶して自室でその様をおかずにやれるぐらい俺も楽しめたら痛みも感じないだろう……

 自分の考えに自嘲の笑みを浮かべ頭を振る。
 これまで何度となくこんな現場には出くわして来たんだ出来るならとっくにやってる。出来もしない"もし"なんて何の意味も無い。

 藤本 晴海[フジモト ハルミ]女みたいな名前だがれっきとした18の男。

 名前がそぐわない188センチの長身にスッキリとカットされた金髪をワックスで立たせたその姿は男では無く牡と言った方がしっくりくる。
 それを更に際立たせる獣の様な鋭い双眸は異性に限らず同性をも魅力する。

 全寮制男子校と為ると此処にいる間はと手短に恋人を作り性欲を満たす事はそうは珍しくなく
 どんなにしようとも妊娠と言う可能性が皆無な分下半身事情は乱れていると言えよう。

 今、正にその乱れた下半身事情が為されてる訳なんだが……。

 ――なんで俺晴海[アイツ]と恋人なんだろう……?




 

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