私の可愛い御主人様

□変化
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「昴、お見合いするの?」

「暁様!?」

 思いがけない暁の登場に周防が暁の名を口にし、今にも泣きだしそうな暁の表情に自分は此処に居ない方が良いだろうと判断した周防は一礼と共にその場を立ち去る。

「ねぇ、昴本当にお見合いするの?」

「はい。父の命では仕方ないので」

「そ、れじゃ仕方ないね……」

 潤んだ瞳を隠すように暁の頭が下がり俯くと同時に涙が流れ落ち赤い絨毯に涙が染み込んで行く。

 泣いているのを悟られまいとする暁だが肩が小刻みに震え泣いているのが見て取れた。

 家族以上に主人と共に生活を共にする執事と言う特殊な職業のため結婚をしても上手く行かず離婚と言うケースも珍しくない。

 竜ヶ崎家に長年仕える椎名家の面々も結婚が上手く行った人数より上手く行かない人達の方が多い。

 昴の父、北斗の結婚生活も上手く行っていると言えば上手く言っているが一般的には不仲とも言える。

 自由奔放の昴の母マリアは今世界一周旅行中、現在どこにいるかは北斗も昴も知らない。

 昴を産み昴の手が離れた後マリアは世界を旅し一ヶ所には留まらない生活を送っているため夫婦の肩書きはあるものの別居以上の生活だが北斗はだからこそマリアと結婚したのだから二人の結婚生活は上手く行っているのだ。

 昴にとっても母親の影響を受けずに居られる親子関係は大変有り難い、干渉してくるのは仕事の先輩でもある北斗だけで十分。

「暁様……」

「ごめんね、ボク昴はずっとボクの傍に居てくれて昴が結婚するなんて考えもしてなかったから」

「私が離れるのが泣くほど悲しいのですか?意地悪な私より優しい周防が暁様の執事になられた方が暁様は嬉しいのでは?」

 暁が泣くほどに自分との別れを悲しんでいる事が嬉しい筈の昴の口からはそうとは思えない言葉が……。

 好きな子程虐めたいとはお子様の様だがこれが昴の愛情表現なのだから仕方ない。

 そうとは知らない暁は普段弾みで口にしていた『意地悪』の3文字を昴がそんな風に捉えていたとは思っておらず真っ赤に色付いた眼差しを昴に向け弁解の言葉を必死に口にし出す。



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