私の可愛い御主人様
□変化
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「時間を無駄には出来ない、だからと言っていきなり押し倒す訳にも行かない」
ここひと月、自問自答を繰り返すものの暁に遠回しにアプローチを掛けたとこで伝わらない事は分かり切っている。
なら直接的なアプローチと言ったらアレしか無い。
暁の感情を只の信頼から恋愛感情を含んだものに変えた上でなら昴が望む関係が作れるかも知れないがその方法が見当たらない、そんな不毛な自問自答を繰り返す事ひと月。
見守る事への限界に達した昴の理性は立て付けの悪い壊れかけの扉の如くガタガタと音を立て、今まで往なせていた暁の小さな接触にガコンと豪快な音と共に理性の扉が簡単に外れ本能のままに暁を襲うのも時間の問題。
(何かいい方法は無いものか……暁様の信頼を恋心に変えてしまう切っ掛けは)
思い詰めた溜息を溢し再び歩き始めた昴。
何があっても暁を手に入れるために今まで以上に慎重になる昴は策に囚われ身動き出来なくなっていた。
「椎名さん。北斗様から御電話です」
「父から?」
カートをキッチンに届け夕飯の打ち合せを終え暁の許に戻る途中の廊下を歩く昴にフットマンの周防[スオウ]が声を掛ける。
振り返った昴の表情は眉間に皺を寄せ明らかに電話相手に対し好い感情を抱いていないのは明らか。
親子仲が著しく悪い訳ではなく暁の父、初彦[ハツヒコ]付きの執事である北斗が態々イギリスから連絡を入れてくると言う事は昴にとって面倒な案件が舞い込んだと言う事。
今まで北斗から連絡が来た時只息子の声が聞きたくなったなどという軽い内容であった例しがない。
嫌な予感しかしない子機を周防から受け取り受話器を耳に当てる。
「何ですか父さん」
「三分とは待たせすぎだぞ。昴」
「相手が父さん以外なら待たせたりはしませんよ」