TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□出発
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***



見慣れた二人部屋。

緑色のシーツに包まれたベッドは、いつものように綺麗に整頓されていた。その隣に並ぶ青色のシーツに包まれたベッドは、いつもであれば、整えられることなく、その横につけられた机のそばに積み上げられた荷同様ぐちゃぐちゃのままだった。

今はそのどちらも綺麗に片づけられ、まるで赴任したての当時のようであった。そのベッドの使用者は、これまでこの部屋で着ることのなかった服をまとい、無言の別れを告げるように戸を閉めた。


***



結界魔導器の止まったシゾンタニアの街は、住人の引っ越し作業に追われていた。ナイレン隊一同はユルギスの指示に従い、積み荷を馬車へと次々に運んでいくなど、引っ越し作業を手伝っている。

「ヒスカ」
「あっ!」

その忙しい中、彼らの目に漆黒の少年の姿が映った。

黒色の私服で、荷物を片手に歩くユーリ。その左腕には、見覚えのある金色の腕輪が輝いている。その隣をちょこちょことついて歩くのは、これまた覚えのある、けれど煙の出ないキセルを咥えたラピードだ。

街の外へと向かって大通りを歩いていく彼らは今日、騎士団、そして一足先にシゾンタニアから去る。シャスティルやヒスカ、それにユルギスやエルヴィンたちは作業の手を止めて、すれ違っていく二人に手を振って見送った。ユーリも彼らに軽く手を振り返すだけの別れを告げ、街の外へ歩き続けた。

と、その先で思いがけない人物が彼らを待っていた。

「お見送りかい?」
「ああ。僕らしくないな」

街と外とを隔てる門の前に、珍しく一人作業を抜け出したフレンが立っていた。ユーリとラピードは彼の前まで来ると声をかけ、足を止めた。

「皆も出て行っちまうんだな」
「帝国がここを放棄する以上、仕方ないさ」
「ギルドの連中なんざ、とっとと消えちまったしな。しかもクレイも一緒に」

結界魔導器が動かなくなった以上、この街に住み続けることは難しい。自分だけではなく、この街に住んでいた人々も移住を余儀なくされ、この街を離れる準備をしている光景に少し可笑しさを覚えた。

そしてシゾンタニアを離れると言えば、メルゾム達とクレイが一足先に、それも狙ったかのように同じ日に街を出て行ったのだ。ユーリはそのことをふと思い出し、ぼんやりと口にした。

『せっかく親父が生かしてくれたんだ。これからは好きに生きて行くつもりさ』

のんきにそう言いながら笑って出て行ったクレイを思い出し、少年二人はくすっと笑い声をあげた。ナイレンの力になるために騎士になったクレイにとって、彼のいない騎士団に未練はさほどなかったのだろう。
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