TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□託された正義
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「ん……」

小さな呻き声を上げ、閉じられていた瞳がゆっくりと開けられた。目覚めたシャスティルの目に最初に映ったのは、心配そうに自分を見つめる、自分と同じ顔だった。

「良かった。シャスティル」

ヒスカのほっとした声を聞き、シャスティルは双子の膝の上からゆっくりと起き上がった。途端に腹部に鈍い痛みを覚え、思わず声を漏らした。痛みを感じた部位に手をあて、何があったのか考えた。

そして思い出したのは、遺跡の奥で見つけた魔導器が止まったと同時に部屋が大きく揺れ、自分は爆発で吹き飛んできたパイプのような部品で腹を強打して意識を失ってしまった、ということ。

「助かったんだ?」
「うん。終わったよ」

ポツリと確認するように呟けば、ヒスカが穏やかな声色で肯定した。

「お、気がついたか?」

少し離れたところからユーリの声がし、シャスティルはそちらに視線を向けた。そしてゆっくりと周囲を見回してみると、夕暮れの下に共に潜入した仲間たちも、遺跡の外で援護に回っていた仲間たちも、ギルドの連中以外、ナイレン隊の皆が近くにいた。

「あれ? 隊長は?」

だがその時、彼女は一人足りないことに気がついた。遺跡の様子を見にどこかへ行っているのだろうか? 最初はそう思った。しかし、次第に周囲の空気がそうではないことを示しているのに気がつく。ヒスカに目を向けると、泣きはらした後のように目が赤くはれていた。

「フレン、隊長どこ!?」

――胸がざわつく。

彼女は後輩に居所を尋ねた。しかし、彼は黙ってうつむいたまま、直接その問いに答えない。だが、強く握り締める彼の手の中には、見覚えのある剣があった。

「クレイさま!」

――まさか……。

双子のそばで静かに黄昏ているクレイに視線を移す。ぼうっと空に向けられていた藍色の瞳は、静かに彼女のほうに向けられ、そして地面へと移動する。何も語らない。しかし、その表情は重く、暗かった。

「ユーリ……!」

――嘘だと言って欲しい!

彼女の声は今にも泣きそうで、すがるようにユーリを見た。ユーリは、今まで見せたことがないのではないかと思うほどの悲しい微笑を浮かべて、そんな彼女を見つめて言った。

「隊長、格好良かったぜ?」
「あぁああああああ!!」

一度はひいた悲しみの波。だがそれは、ユーリの言葉を引き金に、再びヒスカを襲った。ユルギスやエルヴィン、他の隊員たちも、彼女の泣き声と共に涙を流していた。

「やぁああああああ!!」

気絶していた間に起きた大きな喪失。受け入れるのが困難だというように、シャスティルは首を横に振った。そして、とうとう耐えきれずに大きな涙を瞳からこぼし、両手で顔を覆った。

その時、そんな彼らの周囲を、緑色のエアルが漂い出した。それはエアルの濃度が正常に戻った証。

だが、今のユーリ達にとって、それはそれ以上の意味を持っているように感じられた。
隊長の命と引き換えに手にした平穏。言わば、緑の粒子はナイレンそのものであった。赤い粒子とは違い、それは穏やかに包み込むように、彼らの周囲からあふれ出ていた。

ユーリはナイレンの眠るすでに原形をとどめていない古城を見つめ、フレンは預けられたまま返すことのなかった剣を持ちあげた。もう、父に似たあの背中を感じることはできない。残されたその剣が、その代わりであるようにとても重たく感じた。
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