TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□そして、託されしもの
2ページ/4ページ

その様子にフレンは思わず息を呑む。だが、ユーリはそんな事情など気にとめなかった――いや、それ以上に必死になっていた。

「んなもん治せる! 手ぇ出せ!」
「ユーリ」
「全然届かねぇ!! なんか他にねえのかよ!?」
「ユーリ」

ナイレンに、自分の身体を支えている仲間に、焦るあまりなのか、彼は子どものように喚き、足掻いた。

だがそんな彼に、ナイレンは父親の如く静かに呼び掛け、自分と向き合わせた。ユーリは瞳を見開き、それに従うように恐る恐る彼へと顔を向けた。その様子は、まるで見たくない現実と向き合わされようとしているようでもあった。

「わかってんだろ? 助かるもんを助けてくれ」

手を伸ばせば触れることができる。そう思わずにいられないほど、彼の言葉は静かでありながら、ユーリの中にしっかりと響いた。

だが、それは現実ではない。ナイレンは、もう手の届かない場所にいる。

それを理解した時、少年の瞳は現実にわずかに怯え、揺れた。その身を起こして下を覗き込むことしか、今の彼に、ナイレンのためにできることはない。

「クレイ、何を!?」

その時だった。

それまでメルゾムの隣で彼らの様子を見守っていたクレイが、突然動き出した。そして驚くメルゾムやフレン達の前で、彼女はその身を、ナイレンの元へと何一つ躊躇いなく投げたのだ。

「バカやろう! 何やってんだ!?」

だが寸でのところで、ユーリがその手をとった。彼女の身体は宙でぶら下がり、だが藍色の瞳はなおも、クレイの行動に目を丸くしているナイレンへと向けられていた。

「――の、バカ親父!!!」

そして、ユーリ達が彼女を引き上げようとした、その瞬間だった。

彼らの耳に、これまで一度も聞いたことのない声が聞こえた。ユーリやフレン、ヒスカ、メルゾム、そしてナイレンは思わず息を呑み、握りしめている手を震わせている彼女に視線を向けた。

「お前、声が……!」

驚きのあまり続いたわずかな沈黙。それを破ったのは、ナイレンの驚愕に満ちた呟きだった。そして、その呟きが合図であったかのように、取り戻したばかりの声で、彼女は養父に向かって叫んだ。

「……独りにするなよ。目の前で家族が死ぬのは、もうこりごりなんだよ!!」

言葉には怒りを、声には涙をのせ、それはナイレンのもとへと届けられた。刹那、それまで出すことのなかった、少しばかり悲痛な表情をナイレンは浮かべた。

しかし、一度俯き、再び顔を上げた時には、その表情は胸の奥へとしまいこまれていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ