TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜
□出陣
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書庫から自室に戻ろうと廊下を歩くフレン。その表情は、それまでとはまた異なった理由により歪んでいた。
援軍が来るまで待機を命じた帝国。それに逆らい明日の出動を決めたナイレン。命令違反をして死んでいった父。重なる二人の影。食い違う本部と上司の決定。
何を優先とするべきか、彼はその答えを出せないでいた。
その迷いを突然、はっと忘れさせる物音が彼の耳に入った。その音の先にいたのは、両手を叩いて音を出したままの様子で彼の姿を捉えていたクレイだった。
「クレイさん? こんな時間にどうし……!?」
明日は早朝から遺跡に向かうというのに、クレイがまだ眠りについていないことに驚き、フレンはまだぎこちないままの表情で問いかけようとした。
だが、それは言葉の途中で衝撃へと変化した。
真夜中になり、照明も最低限まで落とされた薄暗い廊下。だがその中でも見間違うことなく彼の瞳に映ったのは、普段は意識すらしたことのなかった――意識する必要のないほどに隠されていた――彼女の女性らしい胸部だった。
彼もユーリ同様、彼女のことを男性だと思い込んでいたのだろう。驚愕と共に少なからず頬を赤くしたフレンの様子に、クレイは理由など知るわけもなく、ただ首を傾げて彼に近づいていった。そして動揺を隠せないでいるフレンの前に立つと、その頭の天辺にチョップを食らわせ、右手をとった。
『お前こそ何してんだよ。顔、ひきつってる』
不意打ちを食らい怯んでいるフレンの右手に、声を発せないクレイは指で文字をつづった。
「いえ、なんでも――いてっ!」
『何もないならどうして目を逸らす』
あくまで何もないというフレンに、彼女は再びチョップをして問い詰めた。だが、彼は困ったように言葉を濁すだけで、答えを返そうとはしなかった。
一方、クレイも無理に聞き出そうという気はないのか、溜息をひとつ吐くと、先ほどまでより穏やかな瞳で彼を見つめた。
『自分がどうすべきか、それを決めるのは命令なんかじゃない。自分が求めているもの、そのために行動したいと思うお前自身の意思だ』
「え……?」
彼女が紡いだ言葉たちに、フレンは顔をあげ、その意味を問うように声を出した。すると、クレイはふっと笑みを浮かべ、再び指を動かした。
『親父の指示に不満そうだったからな。“明日は好きにしろ。”それだけお前に言いに行くところだった』
クレイは不敵に微笑むと、彼の掌にそう残して右手を放した。そして今度は頭を優しくポンと叩き、踵を返して暗闇の廊下の向こうに消えていった。いまだに迷い続ける後輩を、一人残して……。
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