TOV The First Strike 〜重なる3本目の道〜

□フレンの迷い
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『優秀な成績で騎士団に合格したと聞いている。父上も、さぞお喜びになっていることだろう』
『……父を?』
『君は父上のようなムダ死にはするなよ? 騎士団の一員であることを忘れるな』

父の知り合いに出会えたと思った刹那、フレンは地獄のどん底へと落とされた。

尊敬していた父の、命令違反者としての消えることのない烙印を見せつけられた瞬間だった。

ただ首を垂れることしかできないフレンをその場に残し、グラダナは満足そうに部屋を後にしていった。残されたフレンには、ナイレンから与えられた任を何一つ遂げることなく帝都を去ることになった屈辱と無力感で顔を歪める以外、何もできなかった。


***



『フレン?』

現実を突き付けられ、中庭に出る廊下の端で力なく首を垂れていたフレン。そんな彼の名を優しく呼ぶ声がした。その主にゆっくりと視線を向けると、ふわりとしたドレスに身を包んだ桃色の髪の少女がいた。

『エステリーゼ様?』
『久しぶりですね』

次期皇帝候補が一人、エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。飾らない純粋な言葉は、それまで黒一色だったはずのフレンの心に、少しずつ光を宿していった。

『わざわざシゾンタニアからご苦労様でした。街の人たちの安全を祈っています』
『恐れ入ります』
『今、帝都は微妙な均衡を保っています。耐えねばならぬことが多いと思いますが、辛抱してください』

日の当たる中庭に出て、二人はゆったりと歩きながら言葉を交わした。言葉使いはその身にあわせたものでも、彼らの間に緊張はない。穏やかで、友のような親しい空気に包まれている。それは彼女が、王女という高貴な身分であってもその地位に溺れることなく、心優しく、真に民の平和を望んでいるからなのかもしれない。

『ここに来たのが私でよかった。ユーリなら、アレクセイ閣下を殴っていました』

彼女と接することで、フレンは心に穏やかさを取り戻していった。そして気がつくと、苦笑の混じった呟きをエステリーゼに向かってこぼしていた。

義を重んじる自分の怒りに触れたものには容赦をしない、そんな彼を隊長が帝都に派遣しなかったことが、今はある種の救いのように感じられた。万が一そんなことになっていれば、フレンの気苦労は果てしないものになっていただろう。

『……ユーリ? どなたです?』
『あ、いえ……』

聞き覚えのない名に、エステリーゼはその首を傾げた。それにフレンが言葉を濁したその時、それまで二人から離れていた彼女の衛兵が間に入ってきた。その無言の圧力により、二人はそれ以上、言葉を続けることができなかった。

『それでは、お気をつけて……』

エステリーゼは悲しげな微笑みを浮かべ、フレンにぺこっと頭を下げると彼らに付き添われて去って行ってしまった。

現在、帝都ザーフィアスでは権力を求める二つの勢力がひそかに争っていた。次期皇帝としてエステリーゼを担ぎあげる評議会と、もう一人の候補を担ぎあげる騎士団だ。それ故に今、エステリーゼは皇族でありながら軟禁状態にあっていた。自由に他人と話をする時間も、僅かにしか得られないほどに。権力争いの道具とされた彼女もまた、非力な籠の中の一羽の小鳥すぎなかった。

フレンはその姿に、今の自分をなんとなく重ね合わせてしまう。力を持っているようで、自分の意志でそれを活用することができない。鎖を断ち切る術を探すしかない囚人のように……。
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